戦争ほど残酷なものはない。戦争ほど悲惨なものはない――「人間革命」の冒頭の言葉を想起した。それも中国本土と台湾を舞台としたこの小説は、戦争というものが取り返しのつかないどころか、殺し合いの連鎖という恐るべき事態を招くことを、浮き彫りにしている。「魚が言いました・・・・・・わたしは水のなかで暮らしているのだから あなたにはわたしの涙が見えません」という言葉は、宿命ともいうべき悲しみを内包する者の沈黙を表わしている。
衝撃的なプロローグに続いて、1975年、台湾の総統・蒋介石の死と主人公の高校生・葉秋生の祖父が殺害されるところから話は始まる。戦争と戦後の内戦、貧困と暴力の日常のなか、主人公の胸中には「祖父はなぜ、誰に殺されたか」という疑問がことあるごとに噴出する。プロローグで提起されたものは、最後に意外な展開を見せる。あたかも怒涛の寄り身に浴びせ倒されるような迫力があるが、戦争の残酷さや国家の巨大さも、人間の生死を越えうる一念によって砕け散る感がする。それが本書の凄みだ。