2009年4月、プラハで「核兵器なき世界」演説をしたオバマ大統領は、その年の11月に初の訪日。「在任中に(被爆地を)訪れることができたら光栄だ。私にとって非常に意味がある」と会見で語った。今年5月の広島訪問の始まりだ。
本書は、歴史的なオバマ大統領の広島訪問の経緯をきわめてクリアに描き出す。まず、オバマの思想・哲学・理念だ。それは思想性に満ちたプラハ演説、広島での17分間に及んだ演説に明らかであるとともに、ジョン・F・ケネディ大統領が掲げた核軍縮というレガシーがオバマに引き継がれている。
そして人だ。くしくもキャロライン・ケネディが駐日米大使であり、積極的に行動したということ、2010年8月6日に米国の代表として初めて広島の平和式典に参列したルース前駐日大使。地ならしとなったケリー国務長官の広島平和記念公園訪問。そして国務省とホワイトハウスの人物の温度差。推進する大統領副補佐官ローズ。
さらに国際情勢等の環境。何よりも日米関係の好転。ウクライナ危機、G8崩壊、オバマ訪日、キューバとの国交回復、イラン核合意、米大統領選挙へのクリントンとトランプ、謝罪ではない広島訪問歓迎の世論と米有力紙の支持・・・・・・。
「点」から「線」へ、「線」から「面」へ――吉野さんは、「オバマの広島訪問」を立体的に時間軸のなかで、くっきりと浮き彫りにしている。