教育基本法の第1条には、「教育は、人格の完成を目指し・・・」とある。「人間教育」に全てを注いできた梶田先生の教育哲学と実践が集約された書だ。副題には「人間としての成長・成熟を目指して」とある。「教育の深さが日本の未来を決定する」と、教育基本法改正案の衆院本会議に立った私は発言したが、その中核が本書で述べられている。感銘する。
「『人間としての尊厳』を具体化していく教育を――『我の世界』を生きる力を育てる」というプロローグから始まる。生きる力には「我々の世界」を生きる力と「我の世界」を生きる力の2つの面があると、梶田先生の世界が開示される。そして「有能な『駒』でなく賢明な『指し手』に」「『内的な促し』のために――本源的自己の錬成と意識世界での動機づけ」「『やる気』の育成を考える」「自己統制における現実適応性と価値志向性――主体形成のために」が示される。哲学不在の時代における「我々の世界」「我の世界」をどう生きるかという生きる力の人間教育の本源に実践面を含めて迫っている。
「『こころ』の教育を考える」「道徳教育の新たな充実・発展のために」「自己を語ることとアイデンティティと」で左右からの浅薄な批判を砕き、人間形成の中道を示すとともに、教育実践における「開・示・悟・入の教育思想」を提示する。教育界のなかでの実践研究を語っているが、その奥行きの深さに感じ入る。
「学校教育」の具体的実践を踏まえての「人間教育」、そして現代社会のなかでの「生涯教育」のあり方をいかに模索してきたか――その崇高な「人間教育」の哲学と実践が滲み出ている。私との対談も紹介されている。