英米仏蘭が日本を狙い、黒船来航以来、騒然たる幕末――。出色の才とうたわれた仙台藩士・玉虫左太夫は逐電し、江戸に向かう。儒学者・林復斎、目付・岩瀬肥後守、外国奉行・新見豊前守等との出会いに恵まれ、幸運にも日米修好通商条約の批准に渡米する外国奉行の従者の座を掴む。太平洋を渡る。そして日本初の世界一周を果たす左太夫の若き進取の眼は、鎖国で閉ざされた日本とは全く違う進んだ文明、恐るべき国力、誰もが同じ扱いを受ける共和の世界をとらえ、驚愕する。
将軍の後継問題に端を発する安政の大獄、桜田門外の変・・・・・・。帰国した左太夫は、藩主・伊達慶邦から、京洛の動静を探ることを命じられる。尊王攘夷、朝廷と幕府、長州・薩摩・会津、勝海舟・西郷隆盛・坂本龍馬・新選組。将軍家茂・孝明天皇の死、まさか薩摩と会津が手を組むとは・・・そして、終にはまさか薩摩と長州が組むとは。大政奉還と慶喜・・・・・・。歴史回転の濁流は、江戸を飲み込み、奥州は奥羽越列藩同盟をもって新政府軍を迎え撃つ。しかし、次々に破られ、列藩同盟の結束はもろくも破れ、同盟に奔走した左太夫の夢は潰える。幕末の各藩・武士の道と恩義と信念と気負い、なかでも怨念、「土佐は安政の大獄、長州は関ケ原、薩摩は木曽三川治水のお伝い。どれも恨みで動いている」・・・・・・。
左太夫が世界や京洛情勢を一定の距離感をもって見る立場にあるだけに、時流がよくわかる。(上)は「万里波涛編」、(下)は「帰郷奔走編」、副題は「奥羽越列藩同盟顛末」。力作だ。