昭和30年、新聞社の文化部記者・司馬遼太郎(32歳)が、本名・福田定一で書いた「名言随筆サラリーマン」という作品。"サラリーマン"がどんどん増えていった時代。中村武志の「目白三平」、源氏鶏太の「立春大吉」、映画でいえば森繁久彌等の「駅前シリーズ」、そしてクレイジー・キャッツの「サラリーマンは気楽な家業と来たもんだ」へと続いていく。野武士が消えて、全ての分野でサラリーマン化していった時、「サラリーマンとは一体何であろうか」と、"野武士記者"司馬遼太郎は"サラリーマン記者"を要請されてアタマを痛める。叛骨心がもたげてくるわけだ。「その苦しみのアブラ汗が本書である」という。
勝負の世界でもある企業人も政治家も記者もいまは"サラリーマン"。古今東西の"名言""箴言"を引用しつつ、"サラリーマン"と"人生"と"人間の幸福"を考えるが、60年たって今読んでも新鮮。合理主義的な管理社会が形成される今だが、やはり人は、生活の安定は確保しつつもロマンティシズムや叛骨、勝負に魅かれるもののようだ。
第2部の「2人の老サラリーマン」「あるサラリーマン記者」は、司馬遼太郎の心が率直に出てとくに面白い。20年ぶりの新刊、32歳司馬遼太郎の人間洞察と筆致に感心する。