「御薬園同心・水上草介」シリーズ第3作。"水草"と綽名される水上草介は、薬草栽培や生薬精製に携わる小石川御薬園(おやくえん)の同心。吹けば飛ぶような外見をもつのんびり屋だが、人並みはずれた草花の知識をもち、親しまれ、周りの人たちの心身を癒していく。御薬園を預かる芥川家のお転婆娘で剣術道場に通う千歳との恋のやりとりをはじめ、心に秘めたものがゆっくり、つつましやかに漂ってくる。
幕末の大変動が始まろうとした時代。御薬園や町並み、庶民の暮らしには四季折々の風情がある。鳥がさえずり、蝶が舞い、赤黄茶の葉色に彩りの秋を終えて白く冷たい冬がくる。四季がはっきりし、人々の行事や振舞いが季節とともにあった静かな、貧しくとも心通う時代――。そんななかで起きる騒動、揉め事、病と薬草を、さわやかに優しく、江戸の生活が浮かび上がるように描く。