1931年9月、満洲事変が勃発。翌32年3月1日、満洲国の建国が宣言され、執政にラストエンペラー・溥儀が就き、「王道楽土」「五族協和」が謳われる。34年3月1日、溥儀が帝位に就き、満洲国は満洲帝国となる。青空の下で挙行された式典に至るまでの激動、争覇の2年間。日本と中国、そのなかで各人の思惑は異なり、絡み合う。
大清の復辟だと信じて即位する溥儀は、「祖宗の地たる満洲において足元を固め、いつか長城を越えて喪われた紫禁城を取り返し、太和殿の龍陛を昇って王座に就く」と志す。側につく梁文秀や李春雲等々。欧州から帰還した満洲の覇者・張作霖の息子・張学良は「漢卿、中国には君が必要なのだ」「30万の東北軍を」との声を受け、襲う刺客を葬っていく。蒋介石の思惑、周恩来の思考、そして日本では満洲国建国を推進した石原莞爾、その関東軍とは異なる見解をもつ永田鉄山の信念と現実的判断等々が、生々しく描かれる。そして時代の濁流のなか騒然たる世相も。
「第1部蒼穹の昴」から始まったシリーズ。「珍妃の井戸」「中原の虹」「マンチュリアン・リポート」に続いて「第5部天子蒙塵」が、これで完結する。