登場するのはわずか3人。ビットコインの採掘(マイニング)を命ぜられる一人課長の中本哲史、その恋人で中絶と離婚のトラウマを抱えながら頻繁に海外に出かける外資系証券会社勤務の田久保紀子、「ニムロッド」と名乗り小説家の夢に挫折した同僚・荷室仁。
人はかつても今も失敗、挫折やトラウマを抱え込みながら生きる。しかし、遭遇する社会は、AI・IT・ロボット、仮想通貨・ビットコインの世界が加速度的に押し寄せる。一方、「創世記」におけるニムロッドは「反逆する者」の意味をもちバベルの塔建造の企画発案者と見なされる。バベルの塔は人間の欲望の果てしなさ、文明の危うさを示すが、これからの社会は寿命すらも消し去られ地球の限界を突破するまでの人口増、情報技術の発展が生み出す並列と情報的重力の社会となりかねない。計算能力を飛躍的に向上させた人類はこの世の理すべてを知り尽くし、駄目な人間、失敗する人間を振り捨て、個が消え、倫理を超え、巨大な空虚に人間を放り出す。
「これ以上進んでいいのかどうか、首を傾げながらやっているんじゃないかな。何と言うか、全体的な不快感だけが漂っている」「君の願いももう完璧に叶ったのではないか?それでも君はまだ、人間でい続けることができるのかな?」「僕のビットコインは元々根拠が無に等しいからこそ・・・・・・膨れ上がった。・・・・・・子供の頃から思い描いていた高い塔を手にすることができた。だが、なぜだろう? その塔を手に入れてから、僕の右目からは涙が止まらなくなったのだ」――。バベルの塔、仮想通貨・ビットコインから文明の空虚と不快感・違和感を問いかけている。