「去年の四月から、だらだらと始まったこの一年間の物語も、桜の開花を待たずに、そのままだらだらと終わりを迎えようとしている」――。舞台は池袋や小岩。パチンコ店、工場、川の土手。一応、大学は卒業したものの、一年留年したせいでバブル最後の売り手市場にも乗り遅れ、バイトとパチンコでどうにか食い繋ぎながらの横道世之介の一年。桜子や亮太、隼人さんや親父さん、光司くん、浜ちゃん、コモロン・・・・・・。順風満帆ではないが、何か幸せ。ゆったりした会話や時間が流れていく。"モーレツ"の昭和と違って、たどり着いた平成の群像。
「ただただ善良」「頼りないが、愛され、悔しい思いをした時になぜか思い出される男」の世之介。「世之介、じゃあさ、おまえ、今日のことをよく覚えておけよ」と父親。「ここがおまえの人生の一番底だ。あとはここから浮かび上がるだけ」・・・・・・。それから27年後の東京オリンピック・パラリンピックで、日吉亮太は活躍するのだが、それは後日談。
「悪人」や「怒り」の吉田修一さんは、「横道世之介」の吉田さんでもあるのは、十界互具の人間を特徴的に描いているからだろう。