跳ぶ男.jpg江戸の後期。土地も金も水も米もない貧しい藤戸藩に生まれた道具役(藩お抱えの能役者)の長男・屋島剛は、継母に冷遇され、嫡子としての居場所も失う。剛の居場所は、母の死体を海に流した低地の野宮と呼ばれる野墓だったが、そこで同じ道具役の息子・岩船保の手を借りて能を覚える。石舞台の上での独修だ。しかし、文武に秀でた保は不可解な事件で切腹となり、さらに若き藩主が急死し、なんと剛が身代わりを命じられる。

保がめざしていたのは「ちゃんとした墓参りができる国」を創ること。そして保は剛に3つの言葉を遺す。それは「素晴らしい役者」「思いも寄らぬことをやる」「うらやましい」ということだ。どうすれば貧乏藩を救えるか。参勤交代と御手伝普請の免除を引き出せるか。将軍にそれをさせる方策はあるか。そこにたどりつく径路はあるのか。剛が辿り着いたのは、能という芸を極め、将軍が日々暮らす御座之間で催される「奥能」の世界だった。

研ぎ澄まされた筆致で能の世界の深さを描く。「離見の見」「能役者は冥界と現世を行き来する者である」「己れの躰の重さの向きを感じろ」「能は詰まるところ、美を見据える舞台である。成熟の行く手を美に置く。ただし、生強の美ではない。ありえぬはずの処にある美だ。能はそのありえぬはずの処を、老いに求めた。老いは酷い。その酷い老いを超えてなお残る美を、能は追う」「軸。軸がわかれば、おそらく能を能にしているものがわかる」「能は美を目指しているのではない。肯定を目指して美を研ぎ澄ましている。だから能は優しい。が、それだけに演ずる者には過酷だ」・・・・・・。

そして剛は「思いも寄らぬことをやる」と決断し、賭け、跳ぶ。深く、緊迫感のある凄まじい作品だ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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