ラグビー精神を象徴する言葉の「ノーサイド」「ワンフォーオール、オールフォーワン」――。試合が終了(ノーサイド)すると敵・味方の側(サイド)がなくなり互いに健闘をたたえ合う。この小説のラストシーンは、試合の現場にあたかも自分がいるような緊張と熱狂の感覚となる。
トキワ自動車のエリート社員・君嶋隼人は上司とぶつかり、横浜工場の総務部長に左遷される。そこはラグビーチーム「アストロズ」のGMを兼務することになっていた。かつての強豪「アストロズ」も今は低迷、しかも同社内には、毎年16億円もの赤字予算をかかえる「アストロズ」の廃部論が渦巻いていた。ズブの素人である君嶋だったが、しだいにラグビーにのめり込んでいく。監督に城南大学の監督を退任させられた名将・柴門琢磨を獲得。その柴門は岸和田徹、浜畑譲らベテランを生かす一方、新戦力として七尾圭太、佐々一ら若手を抜擢する。「2年で優勝争いができるチームにする」との背水の陣の闘いが、爆走するがごとく始まる。あわせて君嶋には、「社内の主導権争い」「日本蹴球協会の大改革」という旧弊を打破する闘いが加わった。「現状を打破する」「道理を外れれば、いつかしっぺ返しを食らう。自浄作用がなくなったとき、そのシステムは終わる」――。池井戸潤の世界が横溢し、展開する。