「『戦争』と『地形』で解きほぐす」が副題。明治5年9月12日(太陽暦では10月14日=この日が鉄道の日となった)、新橋・横浜間の開業、明治7年5月11日に大阪・神戸間の鉄道開業。東京から東海道線が走り、やがて山陽本線が続いたと思っていたがとんでもない。明治初期、東京と西京(京都)を結ぶ「両京線」として構想されていたルートは東海道ではなく中山道であった。そして新橋・横浜間も、東海道線の一部として開業したのではなく、中山道幹線の荷揚用支線という性格をもっていたという。とくに軍部は艦砲射撃を恐れて、海寄りの鉄道敷設に反対、内陸を選択しようとした。しかし内陸部には急峻な山があり、難工事が予想され、建設費も多額を要する。本書では、路線の選択に激しい攻防があり、まさに「戦争」と「地形」で「なぜこんな鉄道路線がとられるに至ったか」を解明する。抜群に面白い。
「西南戦争と両京幹線――なぜ中山道ではなく東海道ルートの運転となったか」「海岸線問題と奥羽の鉄道――なぜ奥羽本線は福島から分かれているか(児玉源太郎の大演説と渋沢栄一の反撃)」「軍港と短距離路線――なぜ横須賀線はトンネルが多いか」「陸軍用地と都心延伸――なぜ中央線は御料地を通ることができたか(北線と南線)」「日清戦争と山陽鉄道――なぜ山陽本線に急勾配の難所があるのか」「日露戦争と仮線路――なぜ九州の巨大駅は幻と消えたか(8日間だけの軍用停車場)」「鉄道聯隊と演習線――なぜ新京成線は曲がりくねっているか」「総力戦と鉄道構想――なぜ弾丸列車は新幹線として蘇ったか」――。
日本の近代史と鉄道路線がこれほど関係していることに驚嘆する。同時に、明治の後半、なんと激しく全国の鉄道路線が建設されたか、感心するばかりだ。