巧妙というか、絶妙というか、スルスルと宮部みゆきの世界に引き込まれていく。「三島屋変調百物語の六之続」だ。今度は、第一話から聞き手を務めてきた「おちか」が嫁に行ったので、三島屋の主人・伊兵衛の次男・富次郎が聞き手となる。百物語の守り役・お勝と古参の女中・おしまの3人で語り手を迎えることになる。4話ある。
「黒武御神火御殿」――。小伝馬町の質屋、二葉屋の女中・お秋の印半天を三島屋は手に入れるが、そこには何かまじないのような言葉が書いてあった。語り手の梅屋甚三郎とお秋と亥之助爺さんの3人は、だだっ広い屋敷に迷い込んでしまう。そこにあと2人、そして更に武士が1人加わり、翼のある化け物に襲われたりする。化け物の潜む森に囲まれ、広さも造りも判然としない屋敷。手掛かりとして残るのは「黒武」の名の入った印半天のみ。6人の囚われ人に6枚だけある印半天。さらに屋敷を進むと広間には赤黒色の火山が襖絵から溶岩を転げ出している。なぜに屋敷に閉じ込められたのか。どうすれば解き放たれるのか。「悔い改めよ、罪ある者よ」との野太い声。神が宿る大島三原山の御神火だ。屋敷に囚われた6人のそれぞれの罪とは何なのか。そしてこの屋敷の謎とは、そして"ひらがな文字"の謎とは・・・・・・。バテレン追放、大島への流罪、そのなかでの噴火・御神火と領主の憤怒という真相に突き当たる。
「泣きぼくろ」――語り手として来たのは、幼なじみの豆腐屋「豆源」の八太郎だった。家族の女性に突然"泣きぼくろ"が付いて「てろり~ん」不貞を犯してしまう。それが続いて一家はバラバラの離散、店もなくなってしまったという。「姑の墓」――恨みをもった姑が「絶景の丘」に葬られ、嫁が来ると突き落とす。登ってはならないという丘。「同行二人」――妻子を失い走っていれば忘れることができると飛脚をする。道中いろいろな怪異に巡り合うが・・・・・・。
人間の欲望と苦悶と失意、憤怒と怨念の世界が実に巧妙に描かれる。火山はその業火だ。変わり百物語――人は「打ち明けて、これが本当にあったことだと、自分たちの身の上に襲いかかったことだと、すっかり吐き出して楽になりたい。慰めてほしい。共に恐れてほしい」と思うものだ。せめて一人だけでも。