昨年2019年は、近代建築の父・辰野金吾の没後100年。佐賀の出身、工部大学校(現在の東京大学工学部)の第一期生。政府が招き、生涯を日本に捧げたイギリスの建築家ジョサイア・コンドルに師事し、日本の近代建築の先頭を走り抜いた。まさに江戸ではない、「東京」に造り変えた「東京はじまる」だ。
日本銀行本店を造った。師・コンドルから奪い取った気迫と意地の建物だ。辰野のむき出しの意地が本書で描かれる。明治は各界でそのような若者の精神性が横溢していた時代であることがよくわかる。続いての大仕事は中央停車場、今の東京駅。辰野金吾の集大成、赤レンガに白い花崗岩、屋根に小屋を載せた辰野式建築だ。死んだ直後の関東大震災でも堅牢で倒れなかった。と同時に、各民営鉄道が東京の各地からバラバラに東西南北に走っていたものの結節点でもあり、皇居のすぐ近くでもあり、丸の内のビル街づくりの中心でもあった。両国国技館、大阪株式取引所、東京米穀取引所、日銀の全国の支店・・・・・・。しかし、国会議事堂はスペイン風邪で死に至ったこともありできなかった。「曽禰君」「たのむぞ」「議事堂、議事堂」との最後の言葉で本書は結ばれている。
コンドル、曽禰達蔵、高橋是清、川田小一郎、片山東熊、妻木頼黄・・・・・・。多くの人々と交流し、喧嘩もし、競い合った闘いの生涯であった。