月まで三キロ.png「月まで三キロ」など6つの短編集。なんとも魅力的、感動的、新鮮で、いずれも天文学や考古学、宇宙物理、気象など科学が主旋律となって響く。苦悩に沈んだ主人公が、宇宙のリズムや自然に接し、包まれ、苦悩の世界から脱出する。宇宙即我、我即宇宙の入り口、その衝撃、飛躍の威力なのか。珍しい理系の小説だが素敵な話が続く。

「月まで三キロ」――。事業に失敗、奥さんとも離婚、母が急逝、父は認知症が進み介護も限界・・・・・・。死を求めてさ迷いタクシーに乗った男。運転手が連れて行ってくれた所が「月まで三キロ」の標識のある所。運転手は、天文学の教師だったこと、月の裏側は見えないこと、それには孤独があり、化石の渦には哀しみがあること、天文好きの自分の息子が自殺したこと等をしみじみと語るのだった。「星六花」――。気象庁に勤務する男に出会ったアラフォーの女性。共に独身。会話は降雨や降雪の専門の話になる。雪結晶の美しさ、その数なんと40種類などの話に驚く。気象少年であった男は「美しい花も、美しい鳥も、美しい人も、生殖のためにそうなっているにすぎない。・・・・・・しかし雪結晶は、雲の中で完全に物理プロセスのみで生まれる。・・・・・・掛け値なしにただ美しい」という世界を語るのだ。女の心に大きな変化が生ずる。「アンモナイトの探し方」――。中学受験を控えた小学6年生が、父母の別離等で潰されてしまいそうになり、祖父母の北海道に行く。そこでアンモナイトを河原でハンマーで発掘し続ける戸川という男と出会う。

「天王寺ハイエイタス」――。前3作とは違って大阪丸出し、笹野家随一のトラブルメーカー哲おっちゃんと娘ミカちゃん。だが、この哲おっちゃんがじつにいい。兄貴は過去数万年の気候の変遷を復元して、今の温暖化を研究する古気候研究者。「エイリアンの食堂」――。夜の日替わり定食を売りにしている味自慢のつくばにある「さかえ食堂」。身内を失った謙介・鈴花の父子のもとに高エネルギー加速器研究機構の女性科学者"プレアさん"が毎日、食べに来る。「実はわたし、138億年前に生まれたんだ。宇宙といっしょに生まれた水素で」と"宇宙人"だったという。

「山を刻む」――。火山研究者と学生と家を出て山に来てある決断をする私。「溶岩だけ調べてもダメ。その間にどんな火山灰層、軽石、火砕流堆積物などが挟まれているか。僕ら火山研究者は、できるだけ細かく、山を刻むんです」という話に、「いつも間にかわたしは、家族にとって、切り刻んでも構わない相手になっている」と思う私。大きな決断をし、自分の感動を他に伝染させる人間へと突き進もうとする。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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