家族というもの、結婚というもの、男という生き物、そして女性の幸せ・・・・・・。静かに、優しく、心の襞、心奥の不安や嵐を濃密に描く。イプセンの「人形の家」を想起させ、現代を浮き上がらせる力作。
結婚して約20年、穏やかな暮らしをしていた主婦・酒井絵里子。ある日、離婚した妹の芙美子がいう。「お姉ちゃんみたいに、20何年も結婚生活が続いている人は、やっぱり結婚に向いている人なんだよ。私、結婚しているとき、ほんとうに息苦しかったよ・・・・・・あと、何十年もこんな生活が続くのかって。地獄みたいだった・・・・・・」「お姉ちゃんみたいな人にはわからないって。お父さんが浮気していたことも、お父さんとお母さんが離婚したことも、私が離婚したことも、多分、お姉ちゃんにはわからない。・・・・・・お姉ちゃんが考えているより、人間ってもっと不可解なもんなんだよ」・・・・・・。
そして清廉潔白、大好きだった父の浮気、よりによって夫が風俗に通っていたこと、一人娘の萌がいかがわしい場所で年上の男と遊んでいたという衝撃の事実に絵里子は打ちのめされる。「何も知らないで主婦として過ごす日常とは何であったのか」「家族とは何なのか、結婚とは何なのか、男という生き物っていったい何なのだろう」・・・・・・。しかし、同窓会で再会した整形し店を持って生きる詩織、いっしょに暮らす女性みなも、その友人の風俗嬢、乳癌を患った美しい老婦などと出会って新たな世界に目覚め、自己を変えていく。絵里子は「新しい自分に生まれ変わりたかった」のだ。自分の人生を生きていく。自分の人生でいつも闘っている。自分の人生を歩み出すことの嬉しさが、最後の締めの一行まで息つくことなく描かれていく。とてもいい。