岩井克人「欲望の貨幣論」を語る  丸山俊一.jpg経済学者・思想家の岩井克人氏が資本主義、グローバル経済、貨幣論について語る。NHKはBSスペシャル番組「欲望の資本主義 特別編 欲望の貨幣論2019」を、岩井さんの言語を軸に、スティグリッツ、ティロ―ル、セドラチェフ、ハラリ、ガブリエルらの世界の知性を交えてドキュメントをつくった。その岩井さんの思考を丸山俊一氏がまとめたものだが、なんとも骨太な資本主義と経済・社会の道筋が人類の思想史として明示される。アリストテレス、ジョン・ロー、アダム・スミス、ハイエクやフリードマン等、歴史と思想にふれつつ、「貨幣」と「資本主義」の本質に迫る。ビットコインやMMTにもコメントする。

「貨幣」をめぐっては「貨幣商品説」や「貨幣法制説」が長い歴史のなかで先行する。しかし「貨幣は他の誰かが交換に応じ受け取ってくれる、ただそれだけのことによって貨幣たりうる」「ゆえに貨幣とは貨幣であるから貨幣である」と岩井さんはいう。貨幣が貨幣として社会に受容されるからこそ貨幣という自己循環論法だ。したがってデジタル通貨の登場は貨幣論からいくと当然の帰結だが、ビットコインは"投機商品"になってしまい、「貨幣になる可能性がほぼゼロ」となったと断じる。またその自己循環論法に行き着いたのは17世紀の"お尋ね者ジョン・ロー"だが、銀行貨幣制度を導入し、貨幣量を増加させるが、ミシシッピー・バブルの"取り付け騒ぎ"で破綻する。シュンペーターはこのジョン・ローの貨幣理論を評価(おそらくケインズも)する。今日の金融システムは「ローのシステム」であり、経済の効率を高める役割を果たすとともに、他方で経済の不安定性を高めるという「効率性と安定性の二律背反」を背負い込むシステムだ。

「資本主義については二つの対立する見方がある」と岩井さんはいう。アダム・スミスを始祖とする「新古典派」は、「見えざる手」に信頼を置き、資本主義を純粋にしていき、地球全体を市場によって覆い尽くせば、効率性も安定性も実現される「理想状態」に近づくという主張だ。ハイエクやフリードマンに受け継がれている。もう一つはケインズを代表する不均衡動学派であり、その先駆者はジョン・ロー。岩井さんもそうだ。資本主義を純粋にしていくと「効率性」は増すが、逆に「安定性」が減る。資本主義が曲がりなりにも「安定性」を保ってきたのは、政府や中央銀行の介入や税制、金融投機の規制があったからだという。

ニューディールのケインズ革命があり、フリードマン等の新古典派の反革命があり、リーマン・ショック後の今日がある。この「二律背反」の鬩ぎあいのなかで、アリストテレスの「貨幣は元々交換のための手段。しかし次第にそれを貯めること自体が目的化する」との言葉が蘇る。貨幣への欲望のパラドックス、さらに「ケインズの美人コンテスト」という、貨幣をめぐる人間の欲望の無限の乱反射(勝ち馬に乗り、稼ぎたい)――まさに、やめられない、止まらない。欲望が欲望を生む"欲望の資本主義"だ。「人間は、貨幣の出現によって、無限の欲望を身につけてしまった」「貨幣があまりにも自由放任されると、資本主義そのものが破壊されてしまう」――そのために、「国家や中央銀行、税制、投機規制等の"外部"の力」そして「貨幣は、本来人間を匿名にする。・・・・・・自分で自分の目的を決定できる存在・・・・・・これが人間の尊厳になる」という。そこで岩井さんはカントの「規範」「道徳律」「相対的な価値である価格ではなく内的な価値である尊厳を持つ」ことを強調するのだ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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