「お父さんは小さい頃、羊毛は雲みたいだと思った。・・・・・・そこに飛び込むと雲のなかにいるようで。うちの仕事は雲を紡ぐことだって思っていた」――。登校できなくなった高校生の山崎美緒。母・真紀も父・広志も悩みをかかえ、家族全体が心が通じ合わず、崩れかけていた。思い余って美緒は盛岡の祖父・紘治郎の所へ駆け込む。大正期の民藝運動の流れを汲み、ホームスパンを織っている山崎工藝社。工房に触れるなかで、美緒は自分を取り戻し、訪ねてきた父と久し振りに父娘の会話ができたのだ。
しかし、母娘の間はうまくいかない。美緒も自分自身に"信"がたち上がってこない。仕事でも追い詰められた母・真紀は「涙を売りにして。どうしてあなたはいつも女を売りにするの」と罵倒してしまう。分かりあえない母と娘、それぞれの思いが業のようにスレ違う。父・広志も会社が売却されようとし、「俺も本当に疲れた」と家庭崩壊の危機を迎える。
祖父・紘治郎もかつて同じ道に進んだ妻・香代と別れた。その妻が死に、苦悩を心にため込み、乗り越えてきた。この「おじいちゃん」の語る言葉は明らかに"境地"に達した者の言だ。壊れかけた家族が美緒を中心に、ホームスパンの糸が心の糸となって紡がれていく。