車夫2  いとうみく著  文春文庫.png浅草を走る人力車。主人公・吉瀬走は、両親が出奔、家庭が崩壊して高校を中退、陸上部の先輩・前平に誘われて車夫となった。その「力車屋」には、離婚して大手商社まで辞めた山上や羽柴、親方の神谷力、女将の琳子など、不本意な出来事を抱えながらも明るく生きる仲間がいた。たまたまではあっても、客として来る人々の人生模様に触れ、吉瀬走はその思いを乗せて伴走することになる。「車夫ってのはさ、人を笑顔にできる商売なんだよ。それってすげーだろ」・・・・・・。いい話がいくつも続く。温かくさわやかな風を受けて走るような作品。

「つなぐもの 遠間直也」――陸上部を突然やめて去っていった走に対して、「なぜ」との思いを引き摺る仲間。「ストーカーはお断りします 吉瀬走」――走を指名する一途な女性客・香坂まり子。「幸せのかっぱ 山上洋司」――山上の離婚(あなたは、あたしのことをなにも見ていなかったの。ね、あたしの好きな色知ってる?)。「願いごと 成見信忠」――余命半年といわれた妻が人力車に乗りたいという。信忠は、大事な存在がそばにいたことに初めて気付くのだ。「やっかいな人 悠木乃亜」――父の再婚に複雑な感情を抱く走と同年代の娘・乃亜。「ハッピーバースデー 吉瀬走」――行方不明だった母親が体調を崩したという手紙が突然届く。走は母に会うかどうか迷う。母が「高校をやめたと知って、取り返しのつかないことをした」と思っていることを知る走。「なくしたものはいっぱいある。高校も好きな陸上も、大学も、いるはずだった人がいなくなり自分の夢も未来も。自分のことなのに、自分ではどうにもできなかった。子どもだったから」・・・・・・。だがもう子どもに止(とど)まらない。「本当に叶えたいことは、ほしいものは、自分で、自分の手と足でつかみたい」と走は思うのだ。

解説を書いた中江有里さんは「どれだけ年を重ねても、人は子どもの自分をどこかに持ち続けて、共存しているのだと思う。走の姿を追いながら、自分の中の子どもの部分が何度も疼いた」という。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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