デジタルで読む脳×紙の本で読む脳.jpgコロナ禍で、企業ではテレワーク、学校はGIGAスクール、日常の買い物等でもオンラインが急速度に進む。一方、若者の「活字離れ」や幼児的・情緒的言葉が蔓延し、中・高校生が教科書等の問いがわからないという「読解力」不足が指摘されている。「デジタル文化は『読む脳(読字脳)』をどう変えるのか」「『深い読み』は絶滅寸前?」「紙の本は『深く読む脳』を育む」「デジタルで読む脳は、連続で飛ばし読みになり、短絡的で真の理解ができない」・・・・・・。著者は読む脳(読字脳)の研究者として国際的に知られ、古今東西の哲学者・教育者・文学者・研究者と交わり行動している神経科学者だ。「紙の本などの印刷媒体からデジタル媒体へ」という劇的変化のなか、「紙とデジタルでは、読む脳の回路にどんな変化を及ぼすか」という根源的かつ重要な問題に真っ向から挑み、提示する。

人間には、文字を読むための遺伝子が備わっていない。遺伝子でプログラムされている見る・聞く・話す・嗅ぐ等とは全く異なり、年代に合わせた大人・親からの忍耐強い文字教育があって「読む脳」の回路が育っていく。著者は「紙の本を『深く読む』ことの重要性」を指摘する。脳内に、文字・音・意味を結びつける複合的な神経回路を成長させる不断の努力が、とくに初等教育で重要となる。「深い読み」の回路が形成されるのは何年もかかる。しかし、「感じられる思考、イメージをつくる能力(俳句でも)」「共感――他者の視点を得る」「会わなくても他者とコミュニケーションを実らせる」「他人の人生に入り、自分の人生に持ち込む」「孤独を脱する」「他者の生活や気持ちに入り込む認知忍耐力をもつ(今の若者は同類でない人々への共感を失い、攻撃的、不寛容になる――トランプやメディア)」「過去の思い込みを忘れて、別の人、別の地域と文化と時代に対する知的理解を深め、高慢と偏見を消す」「推測、推論、思考と共感の基礎をつくる――フェイクニュースの犠牲を避ける」「文字から情報を取り込み、批判的結論を得て、未知の認識空間へと飛び込み、新しい世界へと開示する」――。熟慮、洞察の世界であり、物事の本質を見ることで、「読字脳」から進んだ到達点が「他者に共感したうえで自分の思想を築く『深く読む脳』」だ。それはゆっくり時間をかけて考える「紙の本を読む」ことで育まれる。他者を知り自己を磨く読書の意義だ。

一方、デジタル媒体は速読になり、「iPadは新手のおしゃぶり」で、どうも「恒常的注意分散」になるという。自ら考えず過多な情報を、最も速く、最も簡単に処理する。「斜め読み」で「目がF字やジグザグに動く」「文章全体ですばやくキーワードを拾い、最後の結論に突進する」「O・ヘンリーの小説の夫婦の"懐中時計と髪"のような情感は画面読みはわからなくなる」ようだ。また「自分が時間と空間のどこにいるかわからず"世界で道に迷う"」「キーワードを拾って斜め読みする21世紀の読み手は、意図的に配列された言葉と考えの美しさを見逃していること自体に気づかない」。そして「言語力と思考力が衰えるとき、複雑な社会を単純に幼稚な自己中心主義で断じてしまうことになる」と危惧する。ツイッターで育った若い世代は、難解な文構造や比喩には苦労し、離れていく。書くことも劣化し、難しい散文にはなじみが薄くなり「認知忍耐力」「認知的持久力」を獲得できないことになる。

しかし、デジタル化は更に進み後戻りはできない。本書では「2歳になる前」「2歳から5歳」「5歳から10歳まで」の段階に、「どう読むか」について詳細に、実践的に述べている。そして「読み書き能力ベースの回路」と「デジタルベースの回路」の両方の限界と可能性を理解し、「バイリテラシー読字脳の育成」を提唱する。バイリンガル学習者の育て方と同じ基盤だ。デジタル力も読み書き力と同様に上手く育てる。「デジタル媒体と紙媒体双方で、"深い読み"のできる"二重に読むバイリテラシー読字脳"を育む」「子供の時に多くの本に親しみ、デジタル媒体は意識的に注意深く読む習慣をつけ、それを続けて文章を分析・批判できる『バイリテラシー脳』を育む」ことを提唱する。「デジタルで読む脳×紙で本を読む脳」の「×」は掛け算。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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