ブレグジット、トランプ、プーチン――。米・欧・露は日常的に頻繁な交流があり、利害・思惑が交錯する。巨匠ジョン・ル・カレの最新作。1931年のイギリス生まれだから88歳になる。それ自体が凄い。
英国秘密情報部(SIS)のベテラン情報部員ナットは、ロシア関連の作戦遂行後、中年をすぎて引退が囁かれていた。英国はブレグジットで混乱、米国のトランプ政権の変化やロシアの情報部の脅威もあり、人員の吹きだまりのような部署「ヘイブン」支局長として異動になる。着任早々、ナットは新興財閥(オルガルヒ)の怪しい資産の流れを探る作戦の準備に忙殺される。息抜きは近所のスポーツクラブでのバドミントン。向かう所敵なしの彼に、エドという若者が挑戦してきて二人は親しくなる。そんな時、ナットのところに利用価値もないと思われていたロシア人亡命者セルゲイから緊急の連絡が入り、ロシアの大物スパイが英国で活動を始めるようだという。情報部全体が色めき立っていく。
登場人物は多彩。大きなアクションがあるわけではないが、各人物の思惑、本心の読み合い、読み取られないように細心の注意を払う言動や行動、個人と組織の相剋や忠誠心などが、人間存在の核心に迫るかのように繊細に描写される。息苦しいほどのスパイの日常、そしてその命の中に確立された信念や誇り、宿命というべきものが伝わってくる。