ジャーナリストの山峰健次は、第二次世界大戦のフィリピンで壊滅必至の日本軍の士気を鼓舞し、敵中突破させた伝説のトランペットを手に入れる。しかしそれによって"闇の男"に命を狙われ、逃亡することになる。恋人のヴェトナム人女性アインとの出会いと突然の死別。彼女が残した明治初期の凄惨な潜伏キリシタンの受難の記録、長峰もアインも自らのルーツが長崎にあったこと、戦争時にトランペットを所有し軍楽隊として従軍した天才トランぺッター鈴木の煩悶の手記との出会い、トランペットを追う謎のカルト教団・・・・・・。それぞれがからみ合って逃亡劇が展開する。
秀吉以来のキリシタン弾圧と、鎖国、さらに幕末と明治初期の潜伏キリシタンへの迫害・拷問は言語を絶する。「神はなぜ沈黙するのか」――。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」や遠藤周作の「沈黙」の問いが想起される。そしてあの戦争の悲惨と理不尽――。日本軍と前線に送られた兵士や日本人慰安婦とトランペット。こうした信仰、戦争、愛(御大切)を描く。
サスペンス「逃亡者」とは全く違った究極の人間存在を問いかける。