データを駆使して、日本社会の階級構造を過去から現在まで浮き彫りにする。「日本人はなぜ自分を『中流』だと思ったのか」――。まず質問の仕方が「上・中・下」のどれであるかを問えば、「中」と答える。「中の上」「中の中」「中の下」と分ければ、合計で「中」と答えるという誘導だ(「中」と答える人が9割)。第二に「総中流」がいわれるようになった1970年代後半は、高度成長の続いた直後であり、人々は所得も増加、「総中流の社会」に疑問をもたなかった。それに「中流」にひとつの理想をもった。しかし第三に、経済格差の拡大が何十年も続き、貧困層の増大は隠せない事実となり、自分の生活程度(豊かか、貧しいか)を各人が自覚するようになった。自分の生活水準が社会の中でどの位置にあるかが自覚され、「総中流」を信じなくなった。階層帰属意識が階層化し、所得の違いにかかわらず大多数の人々に共通される「中流意識」が解体した。所得的にも、意識的にも「総中流」が崩壊したのが今というわけだ。
中流には2つの「中流」がある。旧中間階級と新中間階級だ。前者は、経営者と労働者の両方の性質を兼ね備えた独立自営の人々、農林漁業・小売卸売業・建設業・不動産業、家業を営み、地域の町内会などにも参加する。後者は、企業内で資本家階級と労働者階級の中間の位置に占める管理職や専門職など、賃金も旧中間階級より高いが、退職後は「中流の生活」を維持できる人とできない人とに分かれる。両者の社会・政治意識は違うが、退職後の「中流」からの転落は共に懸念される(とくに旧中間階級)。老後のリスクだ。旧中間階級と新中間階級の分断――コロナ禍では、非正規労働者や自営業者が転落の危険にさらされている。現代日本では旧中間階級が減りすぎと指摘されているが、新中間階級もAI・IoT・ロボット時代では仕事を失う危険があると私は思う。
「中流」再生と「新しい"総中流"社会」が提唱される。「中流」の範囲を双方とも、自営への支援や労働時間短縮、最低賃金を上げるなどによって広げること。そしてすべての人に「中流の生活水準を保障する」、中流の生活を働き方改革や社会保障によって保障することを提唱する。