資産家の養父の遺言で山を相続した安原はじめ。その遺言書には「どうしてこの山を売ってはならないのか分からない限り、売ってはいけない」と不思議な一言が書かれていた。今時、山を相続してもと思いがちだが、翌日から「売ってくれませんか」と言う者が続いた。さらに「私と一緒に来てくれませんか」「私は幽霊です」という美女が誘いに来て、「あの山は、ある者にとってはまさしく桃源郷のような場所」という。"幽霊"に誘われ、山に入り、トロッコに乗せられて着いた場所は、山内(やまうち)という異界。
猿と八咫烏の大戦から20年――。山内衆を手足として治めていたのは八咫烏一族の博陸侯であった。"慈悲深い人"で「楽園」を築こうとしているというが、今でも猿の残党に襲われるという。山を相続した安原はじめは、その世界の戦いに巻き込まれ、"楽園"の真実に否応なく迫っていく。
八咫烏シリーズの最新作。作者は松本清張賞を受賞した早大大学院博士課程に在籍する若手小説家。