アフター・リベラル  吉田徹著.jpg「怒りと憎悪の政治」が副題。近代という時代は、人びとが啓蒙され、自由となり、理知的かつ合理的になり、民族やナショナリズム、宗教や人種といった共同体から解放されるはずであった。それが21世紀に入り、グローバル化、移民、社会的な自由主義などに対する憎しみ、怒り、敵意が政治の世界で繰り広げられている。戦後の秩序を形成したリベラリズム。しかし今、リベラルやリベラリズムの退潮、保守対リベラルの日本政治の対立構図は明らかに溶融している。リベラルの理念と構造変化を考え、深淵を探ることによって日本と世界の政治の変化を剔抉するのが本書だ。

リベラルやリベラリズムの定義は画然としない。日本では保守対リベラル、米国では大きな政府の志向、欧州では改革志向。元来は市民としての道徳、義務、寛容、公共善の促進を追求する思想であり、個人の解放や自由、かつ寛容を求める近代の中心軸であったが、最近は劣勢であり、拡散・変容している。

本書は「共同体」「権力」「争点」の三位一体が崩壊しつつあると、根源から指摘する。「国民国家・家族等の境界線が流動化」し、「政党や議会、企業、労働組合などの権力行使が衰退」し、「価値をめぐる分配、移民や歴史認識問題など争点が変化」している。20世紀の後半は、「リベラル・デモクラシー」こそが秩序原理であった。それは「代議制民主主義を基本に、個人の権利や権力分立を保障したうえで、民意を国政に反映させる。リベラリズムは個人の自由を、デモクラシーは個人間の平等を尊重し、両者を合わせた」ものだ。それは大戦後、経済成長によって全体が底上げされて格差が解消、中間層が増大したことに支えられていた。製造業がその中核であった。しかし90年代、グローバル化による産業構造と雇用市場が変化し、製造業に代わってサービス業が中核におどり出る。ここで経済成長が鈍化するなか、雇用が不安定化し、中間層が没落し始め、右派も左派も「リベラル・コンセンサス」へと収斂していく。ここに戦後に安定していた「共同体」は液状化を始め、こぼれ落ちた人々の不満・不安・悲観が蓄積し、権威主義的なニューライトやポピュリズムが台頭する。反リベラルの有権者が増大し、トランプ大統領や英国のEU離脱を生み出すことになる。しかも、「リベラル・コンセンサス」は経済リベラルに反感をもつ労働者と、政治リベラルに対抗するニューライトという"反リベラル連合"を生み、「保守VS左派」の対立軸は変化する。「権威主義VSリベラル」の対立軸だ。加えて、共同体の液状化は、経済成長の背後に隠れていた「歴史認識問題」を表面化していく。国民国家とは「記憶の共同体」であるからだ。さらに剥奪感は旧中間層だけでなく、若者や特に移民第二世代を覆い、ラディカルな暴力行為、テロに進む。宗教の原理主義ではなく、孤立感が原理主義を身にまとうことになるようだ。

吉田さんは5つのリベラリズムを示す。「人権・立憲の政治リベラリズム」「商業取引・貿易等の自由の経済リベラリズム」「個人主義、個人の能力の自由な行使を擁護する個人主義リベラリズム」。そして「社会は人智と人為で良くできるという社会リベラリズム(社会保障、教育、市場の規制、人権擁護)」「民族や宗教、ジェンダーやマイノリティの権利を擁護し、寛容の精神を説く寛容リベラリズム」である。しかし現実はリベラル・デモクラシーは退却し、「リベラル・コンセンサス」に対抗して中間層から転落する労働者の反感と不満と怒りのポピュリズムと、文化・伝統の価値を掲げるニューライトという両面からの反リベラルに挟撃されている。歴史認識問題の世界的波及や移民とテロの問題も顕在化している。それは「5つのリベラリズム相互の不適応と不具合の結果」だという。そして、「個人リベラリズムに対して寛容リアリズムを対置させて均衡を取り戻す」「公的な政治が、再分配や経済的平等性に敏感になるという、経済リアリズムに対する社会リベラリズムの優位性の回復」などの手掛かりを提起する。「共同体・権力・争点とも対応する、アイデンティティ・個人・主体という三角形の均衡と相互の緊張関係が重要」だという。歴史的にも変転してきた「人間性の剥奪に抵抗するリベラリズム」の思想を多様で豊かなダイナミズムに進展させうるかどうか――それがアフター・リベラルに求められているといえようか。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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