どの口が愛を語るんだ.jpg初回の第1球から、内角をえぐる高速シュートを投げ込んでくるような4つの短篇。たしかに「愛」を語っているが、"どの口"が、というほどハードだ。「猿を焼く」は、いきなり冒頭で「笹岡俊満が猿を生きたまま焼き殺したというのは本当ではない・・・・・・」から始まる。「イッツ・プリティ・ニューヨーク」「恋は鳩のように」「無垢と無情」の4篇。"この世の行き辛さ"や"違和感"を語る小説は多いが、本書はそれとは少し違っている。人間の心の内に潜む愛、狂暴、嫉妬、空虚――自己の内に潜むそれらの発露を抑え込んでいるのは一体何か。内に止めておく"枠"とは何か。世にいう正解とか不正解とかはあるのか。何の意味をもつのか。優しさ、安らぎ、人間性の発露をも含めて、矛盾撞着の人間の本質に迫り、あぶり出す。

「猿を焼く」――東京から熊本の温泉町に引っ越してきた中三の平山圭一。暴力的な笹岡、調子のいい富山に出会う。そしてまわりから浮いた存在・涌井ユナに心惹かれる。圭一は鹿児島の高校に通い、友人はそれぞれの道を歩み始める。そんな時、ユナが猿を飼っていた渡辺という男に殺されたという衝撃的事件が起きる。

「イッツ・プリティ・ニューヨーク」――「ぼく」と同じ団地に住む「カメ」(亀=ススム)とアバズレの姉「ウタ」(亀山鳥)。性欲がつのる「ぼく」は「ウタ」に翻弄される。大人になってニューヨークのアート・ギャラリーでなんとススム・カメヤマの作品に出会う。「どう贔目に見ても失敗作以外の何物でもない。それでもその写真からなにかを素手で掴み出せたような気がした」「彼は永遠に失敗のカメラ小僧なんです」・・・・・・。

「恋は鳩のように」――同性婚が合法化された日の台湾。愛し合う3人の男性と1人の女性が結婚という制度の合法化というなかで、愛と性を結婚という制度をめぐってかえって葛藤する。合法化に歓声が沸くなか、何安得(アンディ)は、詩人の恋人(地下室)に電話をする。「アンディはふたつの想いに同時に打たれた。優れた詩人としての地下室に対して溢れ出す、対等な立場での尊敬と愛情。それとは裏腹に、困惑して青ざめているカイを守ってやらねばという母性をも感じていた」・・・・・・。

「無垢と無情」――感染すると人が人でなくなり、人を噛む。愛するものといっしょに腐り果てるか、愛するものを失っても生き続けるか。「おれ」は両親と妹を手にかける。「人を救う愛と人をダメにする愛。オレはこの歳になっても愛がなんなのか、よくわからない」・・・・・・。絶望的な苦難に遭遇していくとき、「愛」や「人間」の根源をリアルに探ろうとした時、何が現れてくるだろうか。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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