文系と理系はなぜ分かれたのか.jpg「文系だ」とか「理系だ」ということが時折り話題となるが、土木工学科出身で政治家の私としては、「土木(シビルエンジニアリング)」そのものが政治と親和性の強い「実学」という実感をもっている。人間臭いリアリズムの世界だ。本書を読むと、なるほど「明治時代、日本は近代化を急ぎ、1886年、東京大学が『帝国大学』と改称し、世界で初めて工学部を備えた総合大学となる。官営の公共事業を管轄していた工部省が廃止され、同省の人材育成機関であった工部大学校をもらい受けたことが発端で・・・・・・理工系教育の歴史において革新的と評価される出来事です」という。産業革命によって、それまで自然科学や文芸、歴史などをいっしょに扱っていた西欧が、自然科学を、そして社会学や経済学を次第に分化していった訳だが、明治の日本は急ぎ丸ごと取り入れ、さらに土木や法律など実学を奨励したというのだ。

「欧米諸国では受験のときに、文系・理系の2つではなく、人文、社会、理工医の3つ、あるいはそれ以上に分かれるのが普通」「日本語でいえば、『人文社会系』と『理工医系』という2つに分ける感覚。『人文社会』『理工医』に分ける区別は絶対ではない。‥‥‥2つの違う立場が存在するのではないか、と思う」・・・・・・。このように歴史を俯瞰しながら、「日本の近代化と文系・理系」「産業系と文系・理系」「ジェンダーと文系・理系」「研究の『学際化』と文系・理系」と章立てして語る。こういう角度での分析は先駆的で面白い。

「(明治初期)学者たちの間で学問分類についての議論は続いたが、『文』や『理』の用語は学校制度や官僚制度の改革を通じて少しずつ世に定着していく」「企業社会、産業界との関わりでも、どんな人材を労働市場が欲しがっているかが文系・理系の就職活動問題として提起される」「つい最近ではアカデミック・キャピタリズムと"文系不要"論争が起きる」「米国の情報産業、生命科学系や薬学系のベンチャー産業が大学の研究者や博士課程による起業であり、理工系の研究が"儲かる"分野と注目された(儲からない人文系)」・・・・・・。「文・理の分かれ方にはジェンダー問題が関わる。日本は進路選択の男女差が大きい国だ」「女性は言語的課題に優れ、男性は数量的課題に優れているといわれているが、近年の研究ではもっと複雑(空間認知能力は男性が高い)」「日本の大学進学率は文系も理系も男性が高いが、先進国の大半において女性の方が高い」「研究の世界では、学際化と分類概念の動揺が起きている」「複数の文化アプローチ――集合知としての学問」・・・・・・。

文系・理系という2つの文化は近づいて1つになるように思われるが、「2つの文化があること自体が問題なのではなく、両者の対話の乏しさこそが問われるべきでしょう」「違いを活かせてこそ、補い合うことができる。集合知が発揮できる、そう思うことから一歩が踏み出せるような気がする」と結ぶ。東日本大震災でもコロナでもSDGsでも、文・理それぞれの考え方が必要であり、まさに"集合知"が大切だろう。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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