中学で不登校になり、家に引きこもっていた一橋沙羅。「週に1度くらいなら通学できるかも」と、一年遅れで通信制の高校に入学。そこで幼馴染の近藤万葉に再会する。読書好きの万葉に読書の楽しさを教えられ、次第に本を読むようになり、それが会話の窓を開けることになっていく。
一方、大学に進学した万葉は、叔父さんの古本屋を手伝っていたが、将来に迷いを感じていた。そんなある日、再婚すると同時に海外勤務となってドイツに居る父から、「叔父さん」の行方がわからないとの電話が入る。そして九州へ向かう。
本を通して人と交わり、会話ができる。自分と出会い、自分の世界を広げていく。沙羅も万葉も迷いつつも前に進み、成長していく。そんな姿が描かれていく。中江さんの優しい世界だ。新美南吉の「ごん狐」、宮本輝の「青が散る」、宮沢賢治「やまなし」、伊藤計劃「ハーモニー」、福永武彦の「草の花」「廃市」、北原白秋の歌「この道」、遠藤周作の「砂の城」など、その都度あげられる本は興味深い。