今年1月発表の第166回芥川賞受賞作。雇用環境が不安定かつ劣悪化し、格差が拡大・固定化しているなかで、腹立たしい日常を送る男たち。フツーの日常が送れない焦り、怒り、むかつき、そして暴発。「うるせい」「ふざけるな」の感情の暴発によって、人生につまづく男が描かれる。
主人公のサクマ(佐久間亮介)は、自衛官や不動産の営業、コンビニ等様々な仕事をしてきたが、いずれも長続きしない。今は自転車で荷物を配達するメッセンジャーの仕事についている。交通量の激しい東京のど真ん中で危険も伴うし、当然ながら非正規で収入も不安定。我慢ならないハラスメントもある。「ちゃんと生きよう」ともするが、外れた歯車から抜け出せない。苛立ち、怒りが噴き上げるなか、税務署の調査官と警官を殴打し、刑務所に収監される。そこでもむかつく事態が起き、同房の受刑者の腕の肉を噛みちぎる。日常の閉塞感と怒りと突発的な暴力――描写は生々しい。現代社会は、鬱積する不満に対し、抗するエネルギーが乏しくなっていると思うが、サクマの噴出するエネルギーは、昔同様に悲しくもある。