堺の商人――今井彦八郎(今井宗久)、魚屋與四郎(千宗易)、天王寺家助五郎(津田宗及) の三人は、貿易による富で自治を貫く堺の納屋衆のなかでも時代の動向を見抜くしたたかな眼を持っていた。永禄11年、織田信長は足利義昭を奉じて上洛する。納屋衆のなかでは、これまでの経緯から三好三人衆につくべきだとの意見も強く、新興勢力であった信長に賭けることに反対も強かった。そのなかで今井宗久ら三人は、信長の勢いと人物に未来をかけることにした。信長の勢いは続き、その実力が認められていき、今井宗久らは信長から茶道衆に任じられ、その内に入る。「堺を手放せば鉄砲も硝石も入らない」「茶の湯で名高い三人は、茶の湯の振興、茶の席で語られる武将との会話・情報の収集の重要な役割を担う」との信長の考えを今井宗久らは察知していた。鉄砲が重要視されるようになり、鉄砲や硝石、ロジスティックスの手配を一手に握ることになっていく。したたかな堺商人の面目躍如、戦乱の情報戦の機密情報を手に入れていく。
しかし、信長の天下布武の戦いは容易ではなく、浅井長政の裏切りにあって朝倉義景との戦いに敗北、窮地に陥る。足利義昭の反信長の動きも信長を追い詰めていく。一向一揆との戦いは10年にも及んだ。西から三好三人衆と石山本願寺、北から浅井、朝倉、比叡山延暦寺、南から伊勢長島一向一揆衆が信長を攻めていた。松永弾正や荒木村重らの動きにも手を焼く。しかし、信長は一気呵成に天下への道を強引に駆け上って行く。
戦国武将の側からの眼ではなく、今井宗久・千宗易・津田宗及ら堺商人の目から見た戦国史。きわめて面白く、全体の動きがよくわかる。そして本能寺の変ヘ。徳川家康、明智光秀の本心。家康の腹心で一向宗徒の本多弥八郎(正信)の怪しい姿・暗躍が「布武の果て」をもたらすことを匂わせる。「茶室を舞台に繰り広げられる、圧巻の戦国交渉小説」と帯にある。「あほやなぁ」「怖いなぁ」という声が響いてくる小説だが、したたかな堺商人や徳川家康が勝つということか。武田や上杉、毛利などは出てくるが、秀吉は出てこない。