「真夜中のアボカド」「銀紙色のアンタレス」「真珠星スピカ」「湿りの海」「星の随に」の5編。いずれも空の星が通低音となっている。
人生は離婚や母親の死、新しい母親や家族・・・・・・。かけがえのない人間関係を失って傷ついた者が、どのようにそれを埋め、再び誰かと心を通わせる関係を築けるか。その最も本質的、根源的な問題を、温かく、静かに、悩みもがく者の心に触れつつ描く。「心通う人を得たい」「離れ離れになった我が子に接したい」「母に会いたい、暮らしたい」――そうした思いが切々と伝わってくる。星座は家族のようでもあり、一つ一つの星の輝きなくしてつくれない。暗く沈んだ星もあれば、光を放たない星もある。海は百川を納めるが、満天の星は満ちているようでもあり、所詮は孤独でもある。
「真夜中のアボカド」――婚活アプリで出会った恋人だったがこのところどうもおかしい。そんな不安定ななか、突然亡くなった妹の恋人が、揺れる心の空洞に入ってくる。「銀紙色のアンタレス」――夏が大好きな高校生の真は、海辺にあるばあちゃんの家に行って夏休みを過ごす。そこに幼なじみの朝日が来て、「好きだ」と言われるが、そこで子供を連れた若い女性と出会い心惹かれる。「真珠星スピカ」――交通事故で母を失った中学生のみちるは、父と暮らすが、母親の幽霊が彼女の前に現われるようになる。みちるは学校ではいじめの標的となり、保健室登校が続いていた。
「湿りの海」――離婚した妻と娘はアメリカのアリゾナ州に行ってしまった。傷心の沢渡だったが、隣にシングルマザーが引っ越してきた。「星の随に」――小学4年生の想くん、親が離婚して父と新しい母である「渚さん」と住んでいるが、弟が生まれる。まだ「お母さん」と呼べない。育児で精神的にまいってしまった新しい母。想くんは、家に入れてもらえなくなる。マンションに住むおばあさんが助けてくれるが・・・・・・。「僕、お母さんに会いたい」との溢れる想いを抑えている小学4年生の健気な純粋な心、そして新しい母にも心を配る少年の心に、涙がこぼれてしまう。
丁寧に心の中を描いている。現在の社会によくある話だが、それが最大の人生の問題であることがよくわかる。何とか乗り越えてほしい、良い結果をもたらして欲しいと、こちらものめり込んでしまう。素晴らしい小説。