バーチャルとリアル。仮想と現実。セクシャリティ、性もまたグラデーション。既成の善悪、正邪によっての切り取りはストレスを増す。そうしたデリケートな社会へと進むあわいの世界と未来が、小説をして描かれる。「お前ら90年代からタイムスリップして来たのか? いつまでゲームがリアルかなんて言ってんだバカが。何がたかがゲームだよ、何が区別だ、何がリアル大事にだ・・・・・・ゲームかリアルかじゃない。ゲームはリアルなんだ。・・・・・・俺は、お前らが、むかつく」・・・・・・。すぐそこに来ている新しい現実社会が生き生きと描かれ新鮮だ。
総合出版社・立象社に勤務し、社会問題や人権問題を扱う小冊子「立象スコープ」の編集に携わる橘泰助は、優秀な編集者だが、その一方で4人1組で敵のモンスターを倒すスマホゲーム「リンドグラウンド」というゲームの世界に没入していた。そして交流を深めたプレイヤー・ 礼に対し、「かわいい」と感ずるのだ。そんななか、担当していた児童福祉の専門家・黒岩文子が、ある女児を「触った」という疑惑を理由に週刊誌に追われる事態が起きる。「黒岩先生は児童虐待の加害者でも小児性愛者でもない」と思い、黒岩を守ろうと奔走する橘。文子の夫の宮田は、猫を可愛がっているが、「小児性愛は病気で、犯罪」と文子を許さない。動物を「可愛がる」ことは、動物の側からいってどうなのか。子供を可愛がるとは、他人の子を可愛がるとは、性愛とは、性と結びつかない愛とは、そして男女の愛、愛と性との食い違い・・・・・・。現代社会に現実に浮上している問題が、橘や黒岩、スマホゲームに参画・共闘する礼等の心の深層から緻密に描かれる。それぞれの存在とリアルを追い求める現実社会の混沌に迫ろうとした意欲作。