kasaityousakan.jpg福岡家庭裁判所北九州支部の少年係調査官である庵原かのん。恋人の栗林は東京で動物園に勤めるゴリラ大好きのいい男。家裁で扱う少年少女は主に罪を犯した場合に処罰を下すことができる14歳から19歳の子たちを指す。処罰とはいっても、あくまでも少年の保護更生を目的としたものだ。そこが成人とは違う。将来ある彼らの可能性を信じて、問題の原因を探り、立ち直りへの道筋をつける、それが処罰の目的だ。家庭裁判所調査官は、問題の原因を探るため、何よりも聴くことに徹する。そのために読み、そして報告書を書き、裁判官に提出する。それを資料として裁判官は審判を下す。本書は7 話で構成されるが、かのんの奮闘はすばらしい。少年の心を読み取り、家族関係を知り、家族や学校での友人知人、周りの人々とのもつれを、冷静に熱意を持って解きほぐしていく。乃南さんの力量が、何ともいえない暖かい風を送ってくれ、心の中までほっとする。帯には「令和日本の姿を浮かび上がらせる名作誕生」とあるが、本当にそう思う。

「日本のどこかで様々な人生を背負って悩み、壁にぶち当たり、家庭裁判所まで来なければならなくなった人の話に耳を傾ける」のが家裁調査官だ。逮捕や捜査ではなく、とにかくひたすら「聴く」役柄だが、そこに本当の解決が生まれ、嬉しくなる。

「自転車泥棒」――少年が自転車泥棒をする。母子3人で北九州に来て風俗店に母は働くが、男が家に入り込み乱暴をしていた。また万引きの少年、背景には何でもかまってくる母親がいた。「野良犬」――身柄付補導委託として預けられた猫を可愛がる少年が突然いなくなる。「母さんが、来たんやと思ったんちゃ」・・・・・・。「沈黙」――ごく普通と思われていた少女が売春行為と売春あっせんで捕まるという事件が起きた。聞いてみると、ある時から「父親と急に距離を置き、嫌悪するようになった」という。

「かざぐるま」――中学時代の同級生が少年に囲まれていたとして、助っ人に入りボコボコにした少年。母子の暮らしだが、少年は実父の「川筋もん」に憧れ、叩き込まれてきた。「パパスの祈り」――暴走族として捕まった徳永ミゲル。父はペルー人、母はフィリピン人、日常の家族の会話があまりにも少なかったので。そこでかのんは・・・・・・。「アスパラガス」――帰宅途中の女性に背後から抱きつき陰部を触るなどをした少年。両親も全く気づいていないが、かのんは、コミニュケーションや対人関係が気づけないASDではないかと思う。「おとうと」――「何かを拾ってくるという行為は幼い頃からの、いわば当たり前の習慣だった」という拾い癖の少年の話。

少年少女が、複雑な家庭、家族関係の中で、迷い傷つき暴れる。少年少女や家族と、また周辺と面会を続けるなかで、こんな良い仕事をしている人がいる。それを落ち着いて語っているとても良い小説。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

太田あきひろホームページへ

カテゴリ一覧

最新記事一覧

月別アーカイブ

上へ