関ヶ原前後の石見銀山。貧しさのあまり故郷から逃亡した父母と別れ、1人さまよっていた少女ウメは、天才山師・喜兵衛に拾われる。ウメは夜目がきき、間歩と呼ばれる銀山の穴の闇も怖くはなかった。岩肌を削る銀掘、その石を袋に詰める入手、ズリを運び出す柄山負・・・・・・。ウメは女ながら入手となるが、夜目がきき躓くこともないウメに皆驚く。喜兵衛に愛されたウメは銀山の知識と秘められた鉱脈のありかを授けられるまでになる。やがて徳川の支配強化により、喜兵衛は追われるように去る。過酷な銀山の世界で生き抜く女の人生を、じっくり描いている。
「黒い血を吐くものは一人、ニ人と増えていった。ウメは長屋に響くうめき声や咳に耳を塞ぐようにして暮らした」「冷たくなった隼人の指先を擦っても擦っても温まらない時がある。間歩の毒が男たちの躰を蝕んでいくのが恐ろしかった」「田も耕さん、商いもせん。銀の山に生まれて間歩に入らんわけにはいかん。あんたもじゃろう、今更、男に抱かれずに生きる術があるんか」「鬼娘と呼ばれていた孤独なウメと、転んでも泣かずにウメの後をついて歩いていた小さな龍。あの頃はまだ喜兵衛がいた。隼人もいた。おとよも、岩爺も・・・・・・」。ヒューヒューと悲鳴のように響く長屋での咳、そして荒涼たる銀山の風。男は30過ぎには死に、女はまた結婚して子供を産む。凄まじい実態が切々と描かれる。
「易々と生きられる場所などない。ささやかな安寧を見つけて一日一日生き繋いでいくしかない」「足掻きましょう、無為に思えても。どこにも逃げられはしないんです」・・・・・・。時代とはいえ重く苦しい。ちなみに、先日読んだ本によると、マスクはこの石見銀山から始まったという。