グローバリズム その先の悲劇に備えよ.jpgトランプの登場や英国のEU離脱、分裂の兆しを見せるEUの現状。「今は誰もが驚き、『ポピュリズムだ』『反知性主義だ』とレッテルを貼って安心しようとしている。しかし10年後はどうか・・・・・・グローバリゼーションを時代の必然と盲信して突き進んだ人々が、現実によって復讐される悲劇となる」――。世界経済の一体化がかつてない規模で進み、グローバリゼーションは必然、自明のものとされてきたかのように思うが、ポラニーが指摘しているようにそうではない。その流れのたびに世界秩序は大きく動揺し、そのなかで国家の主権が強化され、国内の社会基盤が整備され、軍事や福祉・社会保障の仕組みが強化されていく。その事実と歴史的文脈を見よ、という。

「ポピュリズムの定義は、条件が2つあって、1つは大衆迎合主義で、もう1つの条件は反グローバリズム」「愚かな民衆はグローバリズムが利益となることを知らないんだ、という文脈でポピュリズムという用語が使われるが、"ものがわかっているエリートvs.わかっていない民衆"という構図は大間違い」「戦後の平和と繁栄は、戦前のグローバル化を踏まえて、貿易や資本移動に制限を加えたおかげ。疎外される人がぐんと減って、平和で豊かになった」「今、起きているポピュリズムは戦前のファシズムと同じと考えるのではなくて、いったんは形成された中間層が崩れたことで生じた不満の爆発だ」「今のアメリカには労働者と富裕層の分断、金融業に関わる人々と製造業に携わる人との分断、ウォール街とラスト・ベルトの対立がある」「英国のEU離脱は主権の回復運動」「"自由貿易が戦後の教訓"は嘘」「近代合理主義は不確実性を克服できない。だからこそ政治が必要だ。政治学というのは不確実性のアートだ」「理論が示す確実性の世界と、現実の不確実性の世界を橋渡しするのが知性のあるべき姿。大衆も政治家も学者も、不確実性に対する忍耐力とかプラグマティズムを失っている」・・・・・・。今の時代に激しく切り込む。


「力の大真空」が世界史を変える  宮家邦彦著.jpg「構図が変化し始めた国際情勢」が副題。とくに東アジア情勢は北朝鮮の核・ミサイル開発、トランプ政権の誕生などから米朝緊張のなかにある。米中露、そして日本、韓国はどう動くか。自国の位置と役割を冷静かつ立体的、戦略的に考え対応しなければならない。しかも英国のEU離脱、米国のトランプ現象、日本も含めてポピュリズムに巻き込まれ、政治指導層の劣化が顕在化している、と宮家さんは懸念する。

南シナ海、中東・・・・・・。危機感が本書から迫ってくる。だからこそだと思うが、きわめて丁寧に、人類の歴史と戦争を説き起こし「力の空白・真空」という概念を使って、危機とそのプレーヤーのあり方を分析する。

国際関係論の主流は「勢力均衡」理論だが、動体視力を駆使しなければならない今、「力の空白・真空」という概念を出す。そして「『大真空』とは、一般現象としての『空白・真空』ではなく、『権力が行使されない』状態が、『数か月から一年程度の比較的短い期間内に生じ、それが政治的、軍事的に大きな影響を周辺に及ぼすような状態』だ」と定義する。

「国際社会と日本がなすべきこと」「日米韓で朝鮮半島の『力の大真空』を埋める」「南シナ海で柔軟かつ積極的に果たす役割」・・・・・・。

構造的分析から重要な提起がされている。


暗い時代の人々.jpg大正デモクラシーから昭和の戦前・戦中に生き抜いた人々。とくに最も精神の抑圧された1930年~45年の「暗い時代」に「精神の自由」を掲げて戦った人々を描いたという。それは「良心的な文化運動なども圧迫されがちで、軍国主義的色彩は強くなるばかりの時代」「『人権の尊重』『言論の自由』などと説くと、危険思想と言われた暗い時代」「窮屈で、貧しく人が死んでいく時代」であった。

日本人9人の生涯が描かれる。「粛軍演説」「反軍演説」の斎藤隆夫、社会主義運動と女性運動に奔走した山川菊栄、生物学者をめざし、社会運動家として活躍した山本宣治(山宣)、アメリカで恐慌をベルリンでナチスの台頭を見た竹下夢二、日本で初めての婦人の社会主義団体・赤瀾会の創立メンバーで産児制限運動と労働運動に奔走した九津見房子、京都で反ファシズム雑誌を作り支えた斎藤雷太郎と立野正一、マルクス主義哲学者・古在由重、終生のわがまま者にしてリベルタン・西村伊作だ。

世界史の激流と思想の激突、社会の底で苦悶する民衆、女性と権力の弾圧・・・・・・。短編であるがゆえに血がにじみ鮮烈だ。


人生の醍醐味 曽野綾子著.jpg最近までの産経新聞連載をまとめたもの。短いエッセイだが、納得するし何か身体がすっと楽になる。鍛えられた人間の基本、人生哲学。心に刺さるというより、抱えられる。

「求められる『才覚』と『優しさ』」「自立した生活こそ最高の健康法」「人生は何とかなるという魂の強さ」「日本人、ことにマスコミや進歩的文化人や学者は、最近すぐに他人に対して『謝れ』と言うようになった。しかし多くの日本人は、他人に強いて謝らせるという行為の虚しさと思い上がりの醜悪さとを知っていると思う」「悪い言葉だけを禁じても犯罪は防げない。・・・・・・表現力がない人に、人間相手の仕事はできない」「私が最近の日本人について感じるのは、『自分の身は自分で守る』という本能の欠如である」「緊急時に1番に頼れる存在は自分自身なのだ(1番遠い存在である国家に頼るようになった)」「しかし何より大切なのは、他者の不幸をわが身のことのように感じる『同情』の能力なのだ」「不運も不幸もまた一種の財産だ。人間は、涙の中から覚り、知ることがある」「成熟した大人は、分裂した現実に耐え、普通は対立した陰の心理を感じ生きている。しかし日本人には、ひたすらまっすぐ正論を掲げてその道を行けば、必ずゴールに達することができる、と信じている"善意の大人"群が実に多い」「人生で一人も殺さず、自分も自殺しなければ、それだけで大成功だ」「私は、人間は生きている限り、できるだけ働いて当然だ、と思っている」「(閣僚に任命するときに)いざという時の攻め方と耐え方、私生活上の清廉潔白さ、表現力の豊かさなどの上で、何より賢さや徳の有無を見抜け」「最近のマスコミは、自分が人権を守っている人道主義者だということを、幼稚に示すことに熱心である。自分が正しいことを示すために、人を糾弾することも好きだ(「善」だけしか認めない息苦しさ)」「その手の"人道的""弱者に優しい"番組さえ作ればマスコミの世界で非難されることはないのだ」「追及ばかりで議会空転ならお金のムダだ」「"おきれいごと"に愛想を尽かした人たち」「戦争には必ず敵がいるという現実だ・・・・・・その敵にどう対処するかを教えない心情的平和など、まず力を持たない」「安全優先と国際貢献との葛藤」「私は現実を正視する勇気のある人には希望を繋ぐ」「正義、平等、人道主義、反権力などを、はずかしげもなく前面に出して振りかざすのが言論人だと言っている人たちへの対処」・・・・・・。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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