EV.jpg「首都感染」「M8」「首都崩壊」「富士山噴火」など、迫りくる危機の恐怖を描き出してきた高嶋哲夫さんが、「世界からエンジン音が消える」「日本の自動車業界は生き残りをかけた戦いに勝てるか」を生々しく描く。深刻な地球温暖化のなか2050年のカーボンニュートラルを目指す世界、そのためにも2030年までの人類のCO2削減の戦いはまさに「勝負の10年」。SDGsの目標も2030年。2030年代はガソリンエンジン車の新車販売が止まる。EVと自動運転をかけて、まさに今、この時、死に物狂いの戦いが現実に行われている。

主人公は経産省・自動車課の瀬戸崎啓介、32歳。エンジン車とハイブリッド車を捨て去り、EVにすべてを投入しなければ、日本の自動車業界は崩壊し、就業人口500万人は放り出されると焦る。EVで遅れをとっている上、日本最大のヤマト自動車等がハイブリッド車への期待を残していることにさらに焦りを募らせる。経産省も「2030年にはまだハイブリッド車は安泰だ」という空気が強い。米国のステラ(テスラを想定)はEV一本で突き進み、欧米はEVに舵を切っている。中国はハイブリッド車を環境対応車と定義し、その生産をさらに続けるような構えを見せている。しかしその真意はEVにあるようで、瀬戸崎はその戦略を探ろうとする。日本の中小ベンチャー企業の新たな蓄電池部品の技術力も絡んで、世界を舞台にした争奪戦も繰り広げられる。

EV用の蓄電池の容量と寿命、燃料電池車の技術革新、EVの急進展に伴う新たな電力の確保(1000万キロワット)、充電スタンドの設置、車によるビックデータ、スーパーシティーの現実展開、新しいエネルギー循環システム・・・・・・。「エンジンがモーターに」「ガソリンタンクが蓄電池に」「ガソリンスタンドが充電スタンドに」、そして「自動車が自動運転に」「街がスーパーシティーに」・・・・・・。燃料電池車への活路も示唆する緊迫感が伝わる著作。


jitenn.jpg恋愛、結婚、職場の人間関係、契約社員、親の介護・・・・・・。ごく普通の女性が悩み、泣き、葛藤し、自分の気持ちを確かめながら歩んでいく。丁寧に心の襞を描いていく。

東京でアパレルの正社員として働いていた与野都・32歳。更年期障害を抱える母親の看病のために、茨城県の実家に戻り、アウトレットモールのショップで契約の店員として働き始める。恋愛、仕事、親の介護で、忙しい毎日、「自転と公転」の日々が続く。モール内の回転寿司店で働く貫一と出会い、愛し合うようになる。料理はうまいし、優しいが、中学卒の貫一は経済的にも不安定で、結婚についても心の整理ができない。職場でのパワハラや最悪の人間関係、両親共の健康不安など、不器用な都は戸惑い、悩み、流されていく。ごく淡々とした日常を描写するが、貫一と都(あたかも金色夜叉の貫一・お宮)がどうなるか、ハラハラする。

20年後の日本とベトナムにまで、話は展開する。"回り道"だらけの人生だが、温かい。


enu.jpg「名のない毒液と花」「落ちない魔球と鳥」「笑わない少女の死」「飛べない雄蜂の嘘」「消えない硝子の星」「眠らない刑事と犬」の6篇が6章となっている。しかもその本文が一章おきに上下逆転して印刷されているという不思議な本。読みづらいこと甚だしい。自然数=Nとすると、パターンの数はNの階乗。6ならば6×5×4×3×2×1で720通りで、「あなた自身がつくる720通りの物語」とある。どんな順番で読んでも、その物語ができるというわけだ。

「名のない毒液と花」――ペット探偵・江添&吉岡。湾に浮かぶ小さな無人島に犬を見つけようと向かうが、そこで母を失った少年を見る。「落ちない魔球と鳥」――「死んでくれない?」と大型インコのヨウムがしゃべる。その謎を解く高校生。「勝った人は強くて負けた人は弱いのか」「殿沢先輩からのあのメッセージが送られてこなかったら、本当に兄は死ななかったか」・・・・・・。「笑わない少女の死」――40年近くも教壇に立ってきた中学校の英語教師がラフカディオ・ハーンのアイルランドに行くが、英語が通じない。そこで母を亡くした少女に出会う。「少女を殺した犯人を、私だけが知っている」。

「飛べない雄蜂の嘘」――「お前が俺の人生をこんなふうにした」と暴力をエスカレートさせた男を殺す。「俺、この男を殺しに来たんです」と遺体をボートで運んでくれた侵入者の正体とは・・・・・・。「消えない硝子の星」――アイルランドで看護師として働く男。終末期医療を受けている母ホリー、そして娘のオリアナ。「カズマ、ママの病気が治らないこと、わたし、ずっとわかってたの」「神はいるか。神様はいない、不信心な私も、実際のところ、そう思って生きてきた。でも、人間だって無能じゃない。できることはたくさんある」「ホリーがあんなに生きてくれたこと。オリアナがふたたび笑顔を見せてくれたこと」・・・・・・。奇跡を観た看護師の話。「眠らない刑事と犬」――街で50年ぶりに起きた殺人事件。その夜、一匹の犬が殺人現場から姿を消す。ペット探偵が動くが、それを女性刑事が追う。「私も江添の母親と同じだったのだ。いちばん信じなければいけない相手を疑ってしまった」・・・・・・。

1つ1つが、かなり濃密な人間心理の深層を抉る物語。


sokobore.jpg物語は極めてシンプル。しかし、帯にあるように主人公の語り(青山文平さんの語り)、そのリズムに酔う江戸の街の感動作。

一季奉公を重ねて42歳にもなった男――。一万石を超える貧乏藩の江戸屋敷。そのお手つき女中・芳の二度と戻れぬ宿下がりの同行を命じられる。芳は殿様を退かされた老公(といっても今21)に底惚れしており、男はまた密かに芳に想いを寄せていた。同行する2人。初めての極楽を味わったその夜、芳は男を刺し、そのまま姿を消す。「俺の腹に突き刺さった匕首」「お殿様を笑い者なんかにさせない」「芳は百姓の嫁に収まるつもりになんぞ毛頭ねい」・・・・・・。「すんげえなあ、芳は。あんなすんげえ女に終わらせてもらえて。ありがたさが染みいる」のだが、男は一命を取り止めてしまう。

男は「芳は自分が人を殺したことを信じ込んでいる」「人を殺めていないことを芳に伝えたい」「芳はどっかの岡場所に沈んでるんだろう」と懸命に生き、やがて江戸の岡場所の顔になる。ひたすら芳を探し、待つのだ。それを助ける銀次、かつての大名屋敷で働いていた下女・信。銀次が抱えたもの、信が持ち続けた底惚れ。貧しい江戸庶民の姿、その心に沈潜する一途の愛が、感動的に浮かび上がる。


seikaiwokaeru.jpg「行き過ぎた資本主義に対する反省から、日本でも『脱成長』の思想がブームになりつつある。背景にはグローバルな資本主義が環境破壊や人的搾取、分断社会をもたらしたことへの反省と批判の眼差しがある。だが、各国がSDGsという共通の課題に向き合っていく大きな流れの中で、日本だけが『脱成長』へとシフトする展開は非常に危険である。『脱成長』は思想停止と紙一重だ」「世界はGAFAMなどのテック企業の進歩が止まらない。むしろテクノロジーを加速させて、気候変動、食糧不足、教育格差といった社会課題を、ビジネスチャンスに変えている」という。

副題は「SDGsESGの最前線」だ。ESG投資とは環境、社会、企業統治の頭文字をとったもので、2025年には世界で運用資産が53兆ドルを超えるともいわれている。企業価値を考えても、ESGに根ざした投資は、もはやビジネスの"参加条件"。今でさえ遅れている日本が「脱成長」に浸っていてはならない、と具体的に指摘し、2030年の先を行く企業が今狙い動いていることを、「SDGsESGの最前線」として、GAFAM、テスラ、セールスフォース、アマゾン、日本のソニーなどの現実の挑戦を示す。社会は激変していることを痛いほど実感する。

2030年の世界を救うテクノロジー――。「食料不足×フードテック――700兆円市場が見込まれ、畜産業は動物にも地球にも優しくない」「教育格差×エドテック――コロナ禍が押し広げたエドテックの可能性」「医療・介護×ヘルステック――健診レベルのデータが毎日取れる」「気候変動×クリーンテック――テスラのソーラー事業、水素エネルギーはなぜ普及しないか」「大量廃棄×リサイクル――アップルが100%リサイクル素材使用に、リサイクル・リユース前提のものづくりへ」・・・・・・。「ESGの先頭を独走するアップルの理念とアクション」「企業理念=ESGが強みのテスラ」「ESG経営に積極的なアマゾン」「セールスフォース・ドットコムによるホームレス支援」「エネルギー業界の激変とEVへ」などを示しつつ、日本企業への処方箋と政府と企業の役割分担を語る。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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