"老後資金2000万円"問題――その提起したことを冷静に把握・分析し、真正面から「人生100年代の生活」「日本の社会保障と財源」「高齢者の働き方や生活」を考える。
日本の人口構造は今後も高齢化が進行するので、社会保障の抜本的見直しが必要となる。まず年金――。2019年の財政検証で「年金財政はおおむね維持できる」というが、「マクロ経済スライド」「実質賃金効果」「非現実的な経済前提」の3つのトリックがあり、このままでは年金財政は破綻する可能性が高い、という。保険料収入が減少して給付が増加する、そのギャップをどう埋めるか、ということだ。「保険料率引き上げ」「マクロ経済スライド強化」は政治的にも困難だから、「支給開始年齢引上げ」が可能性が高い。しかし、70歳支給開始となれば、9割の人々が老後生活資金を賄えないという。
労働力不足のなかで、「女性労働力率の引上げ」「外国人労働者の活用」の2点以上に大事なのが高齢者の労働力を引上げること。社会保障の給付と負担の双方、労働力の確保などあらゆる面で高齢者の就労を進める必要がある。しかし高齢者の就労はなかなか進まない。働くことが損になってしまう制度となっていることが大きな要因で、とくに「在職老齢年金制度」と「高齢者医療制度、医療費の自己負担」「介護保険」の現状を改革する必要がある。「働くと年金が削減される」「働くと医療費の自己負担がぐっと増える」「介護保険でも前年の所得が一定限度を超えると自己負担率が高まる」というわけだ。「所得ではなく資産を勘案して自己負担率を決めるべきだ」と主張する。
高齢者はどう働けばよいか――。「定年延長の問題点」「企業のアウトソーシングによっての可能性」「ITで広がる高齢者の働く分野」「高まるフリーランサーの可能性(フリーランサーの時代が来た)(フリーランサーになるには早くからの準備が必要)(フリーランサーで働ける税制改革を急げ)」などを提唱している。
人間にはどこか、何かにこだわるということがあるようだ。人は一人では生きて行けないから、感情のズレもあるし、心の中にわだかまりが沈殿する。夫婦、会社、友人との会話のなかで、それが積み重なっていく。微妙な人心の「あや」を小さな38もの話としてまとめた。人間って滑稽だし、面白い生き物だ。「日常の小さな抵抗の物語」といっている。
「あるある」という話、「勘違い」の話、「他人事だと軽く笑っていたら自分に返ってくるブーメラン」のような話、「調子に乗ると・・・」という話、「小さな意地、抵抗」の話・・・・・・。「2LDKの攻防(光った妻の目、野獣のような夫の目)」「東京ドームの片隅で(クライマックスを共有したいのに)」「イマジネーションの檻(象でもはな子とちゃう)「押し売り無用(勇気と感動)」「紙の塔を築く(子供の心の内)」「世界一平凡な説教(何かあると出てくるそいつの説教)」「羊たちの憂鬱(三人の口癖)」「支柱なき世界(鎌倉幕府は1185年?)」「日本語で話せます(日本に滞在してもう8年なのに)」「さっさと忘れるしかないような一件(恋人?)」「満場一致が多すぎる」「絆について」「最後の旅行(親子三人の家族旅行)」「こっちの身(うるさい寿司屋)」「電球を替えるのはあなた」・・・・・・。
絶妙で面白い。人間ってこういうもの。
宇宙の森羅万象について、宗教や哲学はその法理を「名付け」「解釈」を施すが、次第に正確に伝えられなくなる。数学は宇宙・森羅万象の法理を数学という「言葉」によって明らかにするが、重要なことは他と違って論理を共有し、正確に伝え伝搬していくということだ。「定義」に基づき、論理を積み重ねる。数学語を共通語として使っていくということだ。新井先生は「この本の目的は、『数学語を第三言語として身につける』こと。言語の本ですから『ナマモノ』の数学に出てくる補助線の引き方やつるかめ算など数学技能については勉強しません。三平方の定理やオイラーの公式のような有名な定理もやりません。その代わりに数学の文法と和文数訳、数文和訳、そして数学の作文法を勉強します」という。抜群に面白い。
まず「論理の誕生」から始まる。徹底した論理の共通言語・数学語。まず「定義」――点とは、線とは、面とは、偶数とは、素数とは。数学の文法、そこで必要となる論理結合子。和文数訳(「等しい」=、「大小」<、「属する」∉。そして論理結合子の「否定」¬、「かつ」∧、「または」∨、「ならば」→、「同値」↔、「すべての」∀、「存在する」∃)。そして数学和訳(日本語は否定が文の最後尾につくので、あやふやになる難しさがある)。「数学を表現するには、自然言語はあまりに大雑把」「数訳の困難さ」等が示される。そして「証明とは何か」「数学の作文(集合と論理、数学的帰納法、『補題』はなぜ必要か)」「終章――ふたたび古代ギリシャへ(円の面積の証明)」・・・・・・。
数学の世界の入り口に立ち、"新鮮"さとともに、迫力があって浴びせ倒される感がした。
昨年2019年は、近代建築の父・辰野金吾の没後100年。佐賀の出身、工部大学校(現在の東京大学工学部)の第一期生。政府が招き、生涯を日本に捧げたイギリスの建築家ジョサイア・コンドルに師事し、日本の近代建築の先頭を走り抜いた。まさに江戸ではない、「東京」に造り変えた「東京はじまる」だ。
日本銀行本店を造った。師・コンドルから奪い取った気迫と意地の建物だ。辰野のむき出しの意地が本書で描かれる。明治は各界でそのような若者の精神性が横溢していた時代であることがよくわかる。続いての大仕事は中央停車場、今の東京駅。辰野金吾の集大成、赤レンガに白い花崗岩、屋根に小屋を載せた辰野式建築だ。死んだ直後の関東大震災でも堅牢で倒れなかった。と同時に、各民営鉄道が東京の各地からバラバラに東西南北に走っていたものの結節点でもあり、皇居のすぐ近くでもあり、丸の内のビル街づくりの中心でもあった。両国国技館、大阪株式取引所、東京米穀取引所、日銀の全国の支店・・・・・・。しかし、国会議事堂はスペイン風邪で死に至ったこともありできなかった。「曽禰君」「たのむぞ」「議事堂、議事堂」との最後の言葉で本書は結ばれている。
コンドル、曽禰達蔵、高橋是清、川田小一郎、片山東熊、妻木頼黄・・・・・・。多くの人々と交流し、喧嘩もし、競い合った闘いの生涯であった。
「真説 本能寺」が副題。新たな史料を基に、「信長と光秀の確執」などではなく、「信長包囲網」や「世界の大航海時代の植民地獲得、鉄砲、キリスト教」などの動きから「本能寺の変」を解読する。迫力ある書。「光秀単独犯行はありえない」「謎だらけの明智光秀」「革命家信長の光と闇」「戦国時代はグローバル社会だった」「戦乱の日本を覆うキリシタンネットワーク」「『本能寺の変』前と後」の6章より成る。
「本能寺の変」前夜の日本の空気――。「天皇を超える『太上天皇』になろうとした信長に対して、朝廷と足利幕府の再興を狙った近衛前久」「信長に仕えながらも忠誠心を持ちきれず、もともと身を置いていた幕府勢力についた明智光秀」「信長打倒計画を知りながら防ごうとせず、その計画を利用し、キリシタン勢力と組んで天下を取ろうとした豊臣秀吉」「残虐性、人の情には無頓着、合理的で先進的な信長は、国内的な視野しかもたぬ者とは違って、中央集権と重商主義の政策をとり、突き進んだ」・・・・・・。国家観、世界観がまるで違うのだ。歪み、激突は自然の帰結ともいえる。
「織田軍挟み撃ちの黒幕は近衛前久」「足利幕府は元亀4年(1573年)には滅亡しておらず、義昭が幕府を移した鞆の浦で権勢を保っていた」「光秀も組み込まれた信長謀殺計画」「富士宮市の日蓮宗西山本門寺に"信長の首"が祀られており、"明智に誅される"(上が罪ある者を成敗する)とある」「光秀の積もりに積もった鬱屈――信長に命じられる長宗我部元親の四国問題、家康の接待、秀吉への援軍、そして転封。そこへ前久から朝廷を守るために討てという"勅命"。光秀のもつ正義」「京都の阿弥陀寺に運び出された信長の遺骨」「戦国時代の100年間はグローバル社会だった(鎖国史観で消された)」「戦乱の日本を覆うキリシタンネットワーク」「信長を利用し、育てたイエズス会(ルイス・フロイス、ヴァリニャーノ)」「イエズス会(スペイン)と決別し、急速に不安定化した信長政権」「天下人になった秀吉はスペインのいう"明国出兵"をのんだ」「イエズス会を後ろ盾としたゴッドファーザー黒田官兵衛」「日本最大の価値・石見銀山をもつ毛利輝元もキリシタン大名派に寝返った」「大情報網となっていたキリシタンネットワーク。信長暗殺計画も近衛前久→吉田兼和→細川幽斎→黒田官兵衛→秀吉政権樹立」「石見銀山の銀と鉄砲や南蛮貿易、それに介在するイエズス会の布教と貿易」「信長・秀吉の中央集権・重商主義が朝鮮出兵で敗北し、家康は地方分権体制と農本主義政策に転じた」「官兵衛の天下取り狙い」・・・・・・。
真実への探索のエネルギーは今も続いている。面白い。