竹村さんは「黒部の太陽」がダムを造る土木技術者になる機縁となったというが、私もまた、小学生の頃に見た「佐久間ダム」建設の映画が、少なからず土木工学科に進む縁となっている。
本書の主張はきわめて明確だ。日本のエネルギーの未来を考える時、石油・石炭の火力、原子力には限界と問題がある。再生エネルギーが重要だが、水力発電はきわめて有効だ。「現在、日本の総電力供給量に対する水力発電は9%だが、潜在力を引き出せば30%まで可能だ」という。そして方策を示す。「多目的ダムの運用を変更すること。河川法や多目的ダム法を改正して、ダムの運用法を変えれば、空き容量を活用できる」「既存ダムを嵩上げすること。新規ダム建設の3分の1以下のコストで、能力を倍近くに増大できる」「現在は発電に使われていない砂防ダム等に発電させる」「逆調整池ダム建設によるピーク需要への対応を図る」だ。そして「小水力発電」に水源地域の持続可能な活性化発電モデルを見る。そのためには「水源地域事業を支援する水力発電専門技術者集団の支援センターの設立」「事業を支える地銀と事業保証システム」「水資源地域が小水電発電の利益を一身に受けるための社会的合意」を提示する。議員立法だ。巨大ダムの新設ではなく、環境破壊もない水力発電は大きな可能性があることを、技術も含めて示している。
「彼らの思い出には補償できない。俺たちダム屋にはどうすることもできない。それが辛い」――ダム屋の心の声も響いた。