「宗教と道徳――思うままに」(2002年8月)が文庫本としてこのほど出された。その時に読む感銘もあるが、後に読んでなお、臨場感があるのはすばらしい。教育基本法や靖国、そして皇室典範の現在の課題について、深い洞察から確たる見識が示される。従来から靖国をはじめとする梅原先生の考えには、人にも読むことを薦めるほどであったが、「哲学不在の時代」の起点に、廃仏毀釈を示し、ドストエフスキーの問題意識を示してくれているのは、なつかしさのなかに心を落ち着かせてくれる。
道徳は善の価値に関係するとしてカントの「実践理性批判」も提示するが、私が感ずるのは「生命に価値を置く」ことと、その表れとしての自他不二の菩薩的利他行動が根源的なものだと思う。基本的には梅原先生の考えにきわめて近い。
「大阪とノック知事」「新生という言葉の意味」「家康型人間への期待」「奇人の時代」「皇室について」など、一寸したことに至るまで、さすがだ。