
本書では人生前半の社会保障と定常型社会が大きなテーマになっている。わが国は、限りない経済成長=生産の拡大が背景となって、完全雇用が達成されていたし、それとあいまって、終身雇用の会社と強固で安定した家族という共同体による"見えない社会保障"があったと広井さんはいう。それが日本の安定を支えたわけだ。
しかし、経済成長に限界があり、雇用の流動化が起き、会社もまた激変・盛衰にさらされ、家族の迷走が起き、しかも、高齢化が加速された時、社会に不安・不満が起きることは必然である。放り出された高齢者は脆弱な存在となり、働くものには不安と不満がうっ積する。
そうすると、事後対応的な福祉政策ではなく、福祉概念を雇用、そして人と人との絆をもつ地域といった創造的かつ広範なものにしなければこの国はもたない。そこで焦点となるのは、人生前半の社会保障ということになる。教育の深さこそが未来の社会を決定づけ、教育の強化こそが失業対策にも、国際競争力の強化にもつながり、高度成長時代の上昇志向の教育ではなく、人間の豊かさの為の教育が大事となる。格差の最大の要因の一つは、教育であり、20代前後の若者にもっともっとチャンスを与える支援が必要だ。
また福祉社会は人と人との関係のあり方にカギがあるとし、「福祉政策と環境政策の統合」などにもふれている。