「福祉は天から降ってくるものではなく、外国から与えられるものでもない。日本人自身が、自らのバイタリティーをもって経済を発展させ、その経済力によって築きあげるほかに必要な資金の出所はない」「我々はこの日本の国土を、祖先から受けて、子孫に伝える。鴎外が生まれたままの顔をもって死ぬのは恥だ、といったと同じように、吾々もこの国土を吾々が受け取ったままのものとして子孫に遺すのは、恥じなければならぬ」――。先人の厳たる言葉だ。
本書は、日本が世界に類をみない脆弱国土であることを示す。そして明治以来(いや有史以来も)から戦後復興、経済成長時代に至るまでの国土造りを、具体的に「全総」に携わった経験も含めて俯瞰する。
そして今後のことだ。公共事業のあり方、経済との関連、インフラ・社会資本整備とは何かを説きつつこれからの国土造りに論及する。資料も豊富。世界の中でわが国土を見る眼には哲学があってゆるぎない。心持よいほど明快だ。
政治への怒りやあきれるほどの"公共事業悪玉論"、このまま荒廃させて、わが国はわが世代はいいのかという責任感が一本の筋として通っているが、時には抑制的に表現されていることを、同じ感覚をもっている私には感じられる。国土と日本人――この重大なテーマの第一人者の言に、耳を傾けるべきだ。とくに政治にかかわる者は。