「悩む力」の続編。東日本大震災を受けて書かれたということが前著と違う。
「人は生死の境をさまようほど心を悩み抜いたときに、はじめてそれを突き抜けた境涯に達し、世界の新しい価値とか、それまでとは異なる人生の意味をつかむことができる」――ジェイムズがいう「二度生まれ」(宗教的経験の諸相)のできる時ではないか。そう姜さんはいう。
夏目漱石やマックス・ウエーバーは、近代化過程のなかで、人間社会が解体され、価値観や知性が分化し、人が孤立し、絶対性と共同性を失っていくさまを煩悶のなかで先駆的に描いた。それらがより先鋭化した今、自己存在の意味を問うことのできる時ではないか。しかし人間と社会がより浅薄化し、公共領域は大きな歪みをきたしている。
「直接アクセス社会」(チャールズ・テイラー)は、「市場が政治を動かす」ことによって中間的組織・政党をもなぎ倒しつつあり、ネットによる破壊衝動をより強める。
悩むことによって新たな世界の扉が叩かれる。悩むことによって「深まる」。しかし、「開かれる」「生きる力が湧く」という転換こそ重要なカギであり、人生にはその「生きる力」をもたらす「感ずる力」「気付きの力」が大切だと思う。