
徳川御三家と家光、家綱、綱吉の治生とその側近。それらに対する感慨をもちながら、「なぜ自分が世子なのか」との煩悶を常に抱きつつ、「大義」の道を貫き通した水戸光國(圀)。父に厳しくされ、破天荒の少年時代から傾奇者の時を経て学問と詩歌の道に没頭する青年時代、そして史書編纂にかける光圀、黄門の時代へと進む重厚な生涯が描かれる。
周りの人物は深く影響を与えられた者に絞り込まれ、父・頼房、兄・頼重、尾張の徳川義直、紀伊の徳川頼宣、宮本武蔵、山鹿素行、林羅山とその息子読耕斎、冷泉為景、そして妻・泰姫、左近、保科正之、藤井紋太夫等々が活写され、考え深い。
天下万民を治めるには大義、思想、哲学が重要なこと。逆にあわせてそれに自己陶酔と思考停止が付加された時の危険性。政治と思想とのバランス。死をもいとわず決める胆力と拙速を制御する胆力。思想をかかえ込む教養と文化力。本書は「歴史と人生」「政治と文化」「権力と民」を、水戸光圀の生き方そのものから自然のうちに考えさせる力作だ。