
「これだけは言っておかねば」「残しておかねば」「恐るべき楽観主義、皮相的な国家経営・安住を排せ」――執念、情念が迫力をもって心のど真ん中に押し寄せる。岩見さんの記述や実姉・満枝さんのイラストが、きわめて詳細なのは、それだけ敗戦後1年半が生死をかけた日々であったということだろう。
ちょうど10年違いの岩見さんと私。思うのは、民族と国家、日本人と日本を思考する時、戦後以降の世代は右も左もイデオロギーに流されがちだが、岩見さんにとってはリアリズムであるということだ。そのリアリズムは、国家の命運と国民生活が一体となって形成されているものだけに、現在の政治と政治家の薄っぺらさと脆弱さが目立ってしまう。そこに苛立ちを感じているのだと思う。「戦争は二度と起こしてはならない」ということはあっても、「戦争には絶対に負けてはならない」という唸り声を伴う情念が今の思想にはないということだ。いわゆる"右"の思想にも"左"の思想にもだ。本書は岩見さんらしい温かさをもって平易に書かれているが、凄さが迫ってくる。渾身の力と魂込めて書かれた素晴らしい本だ。