敗戦 岩見隆夫.jpg満州で生まれて、敗戦後、引揚げるまで14年4カ月を満州で過ごした岩見さん。「もっとも強烈なのは、敗戦を挟んだ1年半の異界体験。敗れたあとも異国で生存の危機にさらされた、筆舌に尽くしがたい辛酸の日々だ」「戦争は何としても避けなければならない。だがもっと避けなければならないのは敗北の悲惨さだ。もし戦乱に巻き込まれたら絶対に負けてはならない。国破れることほど民族にとっての大悲劇はない」「死者数でいえば、満州引揚げで約24.5万人、シベリア抑留での死者約6万人(全抑留者約60万人)を合わせると30万人を超える。ちなみに広島の原爆投下では約15万人、東京大空襲では約8.4万人、沖縄戦では約29万人......。開拓団の比率が高いのはなぜなのか。......原因は大本営と関東軍の"対ソ恐怖心"にあった」――。

「これだけは言っておかねば」「残しておかねば」「恐るべき楽観主義、皮相的な国家経営・安住を排せ」――執念、情念が迫力をもって心のど真ん中に押し寄せる。岩見さんの記述や実姉・満枝さんのイラストが、きわめて詳細なのは、それだけ敗戦後1年半が生死をかけた日々であったということだろう。

ちょうど10年違いの岩見さんと私。思うのは、民族と国家、日本人と日本を思考する時、戦後以降の世代は右も左もイデオロギーに流されがちだが、岩見さんにとってはリアリズムであるということだ。そのリアリズムは、国家の命運と国民生活が一体となって形成されているものだけに、現在の政治と政治家の薄っぺらさと脆弱さが目立ってしまう。そこに苛立ちを感じているのだと思う。「戦争は二度と起こしてはならない」ということはあっても、「戦争には絶対に負けてはならない」という唸り声を伴う情念が今の思想にはないということだ。いわゆる"右"の思想にも"左"の思想にもだ。本書は岩見さんらしい温かさをもって平易に書かれているが、凄さが迫ってくる。渾身の力と魂込めて書かれた素晴らしい本だ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

太田あきひろホームページへ

カテゴリ一覧

最新記事一覧

月別アーカイブ

上へ