
「金融と世界経済――リーマンショック、ソブリンリスクを踏まえて」というテーマで、「金融拡大の30年間を振り返る」(池尾和人)、「グリーンスパンの金融政策」(翁邦雄)、「世界的バランス調整がもたらす"日本化現象"」(高田創)、「グローバル・インバランス」(後藤康雄)、「アベノミクスと日本財政を巡る課題」(小黒一正)の5人が、きわめて明確に本質と現実を述べている。
全体の流れは、投資ブームの終焉から金融政策へ、それも証券化やデリバティブに関連して新しい金融、そして常に中心となった米国、そしてグリーンスパンの狙いと政策、更にリーマンショック後の世界経済へと連なる。日本の経済を学び「デフレになるならバブルに目をつぶる」というグリーンスパン。日本が90年代以降、民間債務が政府債務に置きかわって"身代わり地蔵"となって国債残高の積み上がりが起きたこと。日本の債務調整の出口が米欧のバブル崩壊と重なった不運。今、アベノミクスが米国の終了段階と重なった幸運。金融危機の背景を探るインバランス仮説と流動性仮説(日本は危機を促したのか、巻き込まれたのか)。日本の財政危機の厳しい現実(2%インフレでも消費税25%必要)を直視した財政・社会保障の抜本改革――などの問題を分析している。「戦略ミスは戦術では挽回できない」という言葉が身にしみる。重要なのは改革の哲学、そして将来構想ということだ。