
表題からすると子どもに哲学を語るように思われるが、解説書などではない。哲学そのものを真正面から示す哲学書だ。
「本当の重要な問題は現在諸科学が扱っているような問題ではない。例えば、一回しかないこの人生とはそもそも何であり、それをどのように生きるべきなのか、という問題こそ重要だろう。科学はそれに答えず、宗教がそれに答えるが、残念ながら宗教の主張することは嘘(根拠なき独断、作り話)だ」「生の苦しみを無くし生に意味を与えるために作り出されたその種の作り話を、どんな種類のものであれ一切認めないというのが、宗教と対立する側面での哲学の根本前提なのだ(哲学は、祈りを拒否する祈りだ)」――。宗教と科学のみならず、宗教との違いを述べる。「常識や教義によって独断的に答えたくなるようなところで、どこまでも論理的に、理詰めに考えていくことが最も価値ある行為であるという信仰」、それが哲学だという。通俗的思考に堕すのではない、哲学に固有の議論の仕方を随伴して示してくれる。
「君の人生は一回性の、他と比較不可能な、無理由になぜか存在しているだけのもので、それが何であるかは決して分からない何かなのだから、他とも比較可能な意味での幸福な人生など求めたりしたら、台無しになってしまう。・・・・・・人生は、本質的に空しく、根本的にその意味が分からないという意味で無意味なものだからだ。それが本質なのだから、それを味わい尽くしたほうが、生まれて生きた甲斐があるというものではないか」――。世界、生命、実存の究極に妥協なく迫る哲学の深淵にふれさせてもらった。