「パクス・ブリタニカ」といわれた英国の栄光の時代は過ぎ去り、第一次世界大戦を経て、世界の覇権は米国へと移っていった。そして経済力・産業力においても世界的地位は低下し、最近はEU離脱を巡って迷走が危惧されている。しかし、英国は「実にしたたか」であり、歴史的にも「引き際の魔術師」であった。今もその存在感、影響力は隠然たるものがある。「英国はグレートブリテン島として捉えるのではなく、そのグローバル・ネットワークの中で捉えるべきである。それがソフトパワーとネットワーク力による『ユニオンジャックの矢』だ」という。「『ユニオンジャックの矢』は『シティ』に世界各国のマネーを呼び込み、世界の開発や産業に関する情報を『シティ』に集中していく仕組みだ」「ロンドン、ドバイ、ベンガル―ル、シンガポール、シドニーと伸びる直線だ」とその構造を提示する。
さらに、英国にある「厚み」「したたかさ」がどこから生まれたかを歴史的に分析する。「デモクラシー」と「ヒューマニズム」――。「自分が圧倒的に優位だという状況で示すヒューマニズム、やさしさ、思いやり――その一方で、自分を凌駕し、否定する可能性のある存在に示す猜疑心、嫉妬心、敵愾心、・・・・・・とりわけアングロサクソンといわれるこの数百年の世界史を主導してきた人たちの思考に交錯する『抑圧的寛容』・・・・・・」「試練の時こそ、つくり上げてきたネットワーク、蓄積、資産がものをいう。民族の英知、ポテンシャルとはそういうものである」「イギリス紳士のいぶし銀のようなユーモア感覚、現実と対話しながら粘り強く回答を求めていく意思。理念に走るのではなく、ほどよく妥協していく柔軟さ、決して深刻にならず、歴史の中から身につけてきた知恵で軽妙に落としどころを見出すしなやかさ、それがイギリス人のスピリットだといえよう」・・・・・・。対欧州、対植民地、対米をはじめとし、世界史の中心として格闘してきた英国の英知とネットワークの厚みが、混迷する世界のなかでどう発揮されるか、それは日本の課題でもある。