IoT、AI、BT、ロボットの時代が急速度に来る。AI時代の未来をどう捉え備えるか――最重要課題だが、本書はきわめてクリア。AIの限界、日本で「人間」として何が今、喫緊の課題かを示す。「東ロボ」プロジェクトディレクタを務める新井さん。クリアであるだけでなく「志」も素晴らしい。
「AIが神になる」「AIが人類を滅ぼす」「シンギュラリティが到来する」――。いずれもそうならない。「AIは計算機ですから、数式、つまり数学の言語に置き換えることのできないことは計算できない (AIは徹頭徹尾数学だけでできている) 。私たちの知能の営みはすべて、論理と確率、統計に置きかえることができるか、残念ながらそうはならない」「数学が発見した論理、確率、統計に決定的に欠けていること、それは『意味』を記述する方法がないということだ」「ロボットが中学生程度の常識や柔軟性を身につけて、日常のさまざまな場面で役立っているという未来像は、現状の技術の先には見えない」――。
ところが、AIと共に働くことが不可避な2030年代以降の日本の中高生を調査すると驚愕の実態が判明する。「中高生の多くは、教科書を正確に理解する『読解力』を獲得していない」「多くの仕事がAIに代替される将来、読解力を獲得していない人間は失業するしかない」「求められるのは(AIのできない)意味を理解する人材」「人間に期待するのは、AIにはまだ難しい『同義文判定』やAIには不可能と思われる『推論』『イメージ固定』『具体的同意』の能力だ」――。そこで新井さんは「ロボットは東大に入れるか」に続いて「RST(リーディングスキルテスト)」という世界にないプロジェクトに踏み込む。読解の偏りや不足を科学的に診断し、中学卒業までに全員が教科書を読めるようにして卒業させるという挑戦だ。今、始めなければ間に合わない緊急提言といえる。