欲望の民主主義  丸山俊一著+NHK「欲望の民主主義」制作班.jpgNHK、BS1スペシャル「欲望の民主主義~世界の景色が変わる時~」で、「世界の知性」たちへのインタビューを行った記録。副題は「分断を越える哲学」。問題意識は、英のEU離脱や米のトランプ大統領誕生、そして仏の急進的な右翼の台頭、世界で頻発するテロ・・・・・・。このなかから世界の民主主義に何が起きているかの問いかけだ。民主主義の劣化、熱意の希薄化、破壊衝動、ネット社会の影響、グローバル化、分断の構図、人間の欲望と集合体の社会などを考察する。

いずれの「知性」からもホッブス、ルソー、トクヴィル、そして現在が語られる。「万人の万人に対する闘争」を回避するには、自らの欲望を制御し、畏怖する「リヴァイアサン」を打ち立て、国家と契約を結ぶことによって秩序を回復する。ホッブス、ルソーの国家・主権・自由の原始的概念だ。トクヴィルが発見した米の民主主義の良質の部分、中間共同体・市民団体等の活動が、ツイート・ITで崩される現実も語られる。民主主義が衆愚政治や多数者の専制(少数派の抑圧)に陥ることを警戒したベンサムやミルも今、蘇る。

「世界は存在しない。一角獣は存在する」といったマルクス・ガブリエル。「超越した世界」という存在こそが対立を生む。世界を実体化する危険性は、対話のない無数の"正義"の主張の氾濫を生む。ガブリエルは「民主主義とは悪を認識して正す手続き」「倫理観の進歩に照らし合わせて、法律自体を改正すべきです」「民主主義は社会の倫理観の進歩を実践に照らしたもの」「民主主義は、手続きや制度の中で普遍的価値を実現しようとする試み」といい、「民主主義の世界的価値観が崩壊したら、見たこともない規模の戦争(暴力)の世界を目撃する。(民主主義は)今のところ人間がみんなで生き残るための唯一の選択肢」という。民主主義のポテンシャルを引き出せるかどうか、ということだろう。

グローバル化、共同体に参入してくる外国人・移民、格差の拡大、共同体からの孤立化になりかねないIT・AIの時代、代表制民主主義に内包される代表者と有権者のズレ(民主主義の隙間風)、民主主義の主人公でなく阻害されていると感じる者の増大と分極化・・・・・・。「自分たちのことは自分たちの手によって決める。政治参加で世を変える。弱肉強食の世界を避ける」――「自分とは異なる存在を欲望することで自らの欲望を実現する」「民主主義とは自らを問うものだ」との識者の発言は重い。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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