一流の狂気.jpg「心の病がリーダーを強くする」が副題。「危機の時代にあっては、精神的に正常なリーダーよりも精神的に病んだリーダーの指揮の下にあるほうが私たちはうまくやっていける」「典型的な平時のリーダーは理想主義的で、世の中や自分に幾分楽観的にすぎ、苦しみや痛みに鈍感であり、つらい経験をしたことがない」「危機の時代の偉大なリーダーは、たいてい優れた知性をもち、身体的に健康を損なっていることが多い。生い立ちは恵まれているが、葛藤に満ちた家庭状況・・・・・・パーソナリティ特性と生い立ちの状況は、躁病やうつ病のような精神疾患、あるいは気分高揚性のような異常な気質とも相関が認められる」「彼らの弱さこそが彼らの強さの秘密なのだ」という。時代の危機と格闘した偉大なリーダーの精神分析に踏み込む。しかもホモクリット(平凡人)がリーダーであれ、一般大衆であれ、大失敗をすることを示すことにより、精神疾患をもつ人への偏見を寛容に変えるという人間学の変更をも志向する。きわめて大胆、ユニークで興味深い。

例えばケネディ。アディソン病に長期間苦しみ、一方では気分高揚性の気質(豊富なエネルギー、性欲亢進、仕事への熱中、社交性、危険を冒すこと)をもつ。連日のように薬づけ、ステロイドづけ。ケネディ大統領在任1000日の後半、医師団が理に適ったステロイド乱用を抑え込み、弱々しい前半のケネディではなく輝かしい成果をあげた。また、ヒトラーはかなり重い双極性障害をもっていた。「1937年までの間は障害はよい方向に作用し、カリスマ性、不屈の態度、独創性を高める方向に作用したが、それ以降、連日の静脈内注射によるアンフェタミン投与のせいで躁とうつのエピソードがひどくなり、リーダーとしての能力が損われた」という。さらにチャーチルの重篤な反復性のうつ病(気難しく、攻撃的、自信の絶頂にいるか、ひどいうつの底にいるか)、リンカンの重いうつ病(うつは、現実的なものの見方と共感能力を彼に授けた)、ガンディーやキングのうつ病と共感能力の強い結び付き・・・・・・。

「ネガティブな面や危険性も十分認識したうえで、精神疾患というものが人類の最高の特質の証拠でもあることを人々が理解するようになっていくだろう」と著者はいい、訳者の村井氏は本書の意義と試みを認めつつ「疾患のもつ偉大な力を強調しすぎることは・・・・・・狂気に対しての落とし穴もある」「双極性障害とうつ病を同列にみている点にも日本の精神科医は違和感をもつ方も多いだろう」という。しかし、いずれにしても面白い刺激的な書だ。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

太田あきひろホームページへ

カテゴリ一覧

最新記事一覧

月別アーカイブ

上へ